第41話 2人で電車を待ちながら

 初夏の澄んだ日差しは、もう暑かった。

 僕と並んで駅に向かって歩くかすみセンパイは、小柄な身体で荒い息をつく。


「で、山場は?」


 僕のイメージは固まっていた。やっぱりふうふう言いながら答えた。


「廃屋を背にした対決です」


 駅が見える頃には、舞台装置の見当もついていた。

 僕は、だいたいのイメージを語る。


「高さ1間半(約2.7m)、幅1間(約1.8m)のパネルが3枚かなと。それ以上多いと、手間の割に小屋っぽくなくなる気がします」


 かすみセンパイは、にやりと笑った。


「さすがだね、サボってたわけじゃなかったんだ」


 そう、舞台装置はもともと、僕のポジションだ。

 ここは、自信たっぷりに答えられる。


「伊達に裏方仕事でコキ使われてきたわけじゃないですから」

 

 ホームに着いても、電車はなかなか来なかった。学休ダイヤだからだ。

 電車が来るまでに、かすみセンパイはルーズリーフに舞台見取り図を描いてくれた。


「ちゃんと装置とキャストの出ハケを考えなくちゃ。対決シーンには、悠里は出てこないのね?」


 そこで僕が眺めたのは、向かいのホームだった

 5月の光を照り返すホームは明るい。反対方向に帰る体育会の部員たちが、日陰に固まってペットボトルのジュースをラッパ飲みしていた。

 そのホームを舞台に見立てながら、考える。


「廃屋を背にして、観は彼を心配する他の登場人物に取り囲まれます。観は、悠里が彼らと接触しないよう、逃がす時間を稼ごうとしています」


 かすみセンパイは満足そうに、僕のアイデアを図にまとめていった。


「つまり、廃屋を背景として観が立つ。それを両側から挟むようにして……」

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