第37話 中盤の絶体絶命

 更に僕は、自分が書き留めたセリフを、芝居と共に読み上げる。

 まず、観が開き直るところからだった。


《いやだからさあ、それを何で言わなくちゃいけないわけ、お前に? お前、俺の何? いいだろ、俺がどこで何してようと。やましいことなんか何も……。》


 あきらもムキになって言い返す。


《何よその言い方、聞きたいから教えてって言ってるだけじゃない、じゃあ何で聞いちゃいけないの、あたしの何なのよ、観は!》


 こうなると、もうお互い、意地の張り合いだ。

 やましい所のある観は、なりふり構わず喚きたてる。


《だから何でもないって! 何でもないのに何で? 俺に何言えっての?》


 とうとう、あきらは臍を曲げてしまった。


《……もういい》


 背を向けて去っていくあきらを、観も追いかけないわけにはいかない。


《あきら……? おい、あきら、待てよ、おい!》


 遠くでその姿に気付いた者が、ひとりだけいる。

 

《……羽佐間?》


 そこで、差し挟まれるのが、観のナレーションだ。


……泣きながら駆け出して行くあきらを、担任に見られてしまったのが運の尽きでした。その場は知らん顔をしたくせに、陰ではしっかり両親からの情報収集を試みていたのです。その結果は……。


 僕はつづいて、観の家族を演じる。

 まずは、父親だった。


《おい観! その、あきらちゃんとはうまく行ってるのか?》


 隠し事がある分、観は陽気に軽口を叩く。


《だから何でもない! 何だよその、俺が日ごろからなんかやってるみたいな言い方は!》


 そこで色っぽい声を立てるのは、母親の方だ。


《そうよ父さん、子どもの色恋に口挟んだら、こじれるだけよ?》


 観は、愛想笑いと共に答える。


《だから、あきらとは何にも……》


 そこで母親は、余裕たっぷりに踏み込んでくる。


《あきらちゃん……とは、ね》


 罠にはめられた観は、呻くしかない。


《え……う……》


 母親は、冗談めかした中にも厳しい口調で問いただす。


《はい、言葉に詰まったそこの君、吐きなさい》

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