第20話 キャラは一貫しなくちゃいけないんじゃないの?

 それは、中身のない挨拶に過ぎなかった。


「わかりました」


 教室を出て行こうとしたところで、センパイはダメ出しの理由を説明しはじめた。


「まず、オクテが積極的にならなかったら、オチつかないでしょ!  この話」


 僕はそれを、半分くらいしか聞いていない。


「すみませんちょっと」


 両太腿をきゅっと締めて手を挙げた僕に向かって、かすみセンパイは形の整った眉を寄せると露骨に顔をしかめた。


「何よ」

 

 我慢の限界で、僕は叫ぶ。


「トイレ行かせてください!」


 かすみセンパイはいらだたしげにバン、と机をぶっ叩いた。


 「行って来い!」


 命じられるままに、僕はトイレを探して駆け出した。

 どこだよ、使えるのは! 

 ええと、ここの角曲がって階段上がって確か……あった! 

 ああ、チャック固い、開かないよ限界限界限界……よかった、開いた! 

 ……ふ~。


 用を済ませると、冷静にものが考えられるようになった。選択授業教室に戻る廊下で、かすみセンパイへの反論を考える。

 まず、アニメやマンガを見て育ってきた僕としては、納得がいかなかった。

 長編ならともかく、短編でキャラが180°変わったら、読者はついてこられないじゃないいか。

 現実の人間だって、個性があるだろ? ひとりひとりを区別する目印だろ?

 じゃあ、目印は1つあればいいじゃないか。

 必要最低限の点数稼ぐのがやっとのバカ生徒とか。

 アニメとかマンガとかにはまっている、皆勤しか能のない人畜無害な高校生とか……。


 だから、教室に戻った僕は、自分の信念に従って言い返した。

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