第15話 センパイの遠い眼差し

 僕は再び座らされ、センパイの説明が再開された。

 この歌は、江戸時代後期に活躍した頼山陽という学者が、弟子に漢詩の構成を教えるのに使った戯れ歌だという。


  起 題材の提示

  承 内容を発展させる

  転 話題を別の視点から説明する

  結 全体に共通するテーマを示す


 かすみセンパイは、こめかみのあたりをぽりぽり掻きながら窓の外を眺めながら言った。


「詩ってさ……」

「はいはい、何でしょう?」


 そう言って、おどけてみせた僕だったけど、実はちょっとドキっとしていた。今まで頭からガミガミやられていたのに、急にそんな顔をされたら……何かこう、胸が締め付けられるような気がする。

 センパイは遠い目をしながら、言葉を続ける。


「物事とか出来事を言葉で描写するもんだから、これでいいわけ。題材を詳しく説明してから、ちょっと違う角度から見て、全体はこうだよってまとめてやるの」


 その曲線のくっきりしたボディの割に、色気のないことを言ってくれてげんなりした。でも、センパイの視線を追ってみると、空を見つめている。日が暮れかかっているとはいえ、空はまだまだ明るい。


「僕、台本の話してるんですけど」


 ちょっとひねくれたことを言ってみた。この話が延々と続くのかと思うと、正直うんざりだったのだ。それに、人の努力を完全否定するんだったら、どう直せばいいのかってことぐらいは教えてくれてもいいんじゃないかという気がした。

 でも、センパイはやっぱり僕を見てはくれなかった。


「起承転結で作った上演見せられて寝たことが何度あったか。なかなか話が本題に入んないんだもん」


 遠い目をして言うことじゃない気がする。

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