第16話 まるで子供のケンカのように

「だから、起承転結の構成を漢詩の通りにやっちゃうと、キャラと設定の説明がムダに長くなるのよ」


 思い出すのも腹立たしいといった口調でつけくわえたセンパイは、小さな、柔らかい手で僕の肩をぽん、と叩く。


「センパイ……」


 ドキッとして一瞬、センパイの顔を見つめる。

 見つめ返す黒縁メガネの奥の瞳は、きれいに澄んでいた。

 でも、その口から出る言葉は冷たい。


「気にしないで、アンタだけじゃないから」


 けなされてるんだか励まされてるんだか分かりゃしない。

 何を期待していたのかはともかく、肩透かしを食らった僕は、不機嫌さを丸出しにして答えた。


「じゃあ、どこで説明するんですか」


 なおもゴネる僕のささやかな抵抗なんか知ったことかという態度で、かすみセンパイはさらっと説明した。


「はじめ」

 

 あまりにも単純すぎて、何が何だか分からない。

 ぽかんとしていると、センパイは面倒くさがりもせずに、というか待ってましたとばかりにまくしたてる。


「全体の三分の一くらいね。それも、登場人物の行動を通さなくちゃダメ。それがどう変化したかを描くのが……」


 もったいをつけられて、思わず身を乗り出すと、やっぱり、ひと言でさらりとまとめてくる。


「おわり」


 やっぱり、何だか納得がいかなかった。


「そんな簡単なことでいいんですか?」


 僕はムキになって質問をぶつけ続ける。でも、センパイは軽くかわした。


「初めと終わりがあるから『ドラマ』になるんじゃない」


 かわされると余計に、負けてなるものかという気がする。

 無駄だと分かっていても、なんとかして僕の言い分を認めさせたかった。


「じゃあ、『なか』って?」

「なんでそんな結末になったのか、ってことじゃない」

 

 もしかすると、認めさせたかったのは、僕の言い分じゃなくて、僕自身だったのかもしれない。

 どんな小さなことでもいいから。

 でも、それを言葉で伝えられるほど、僕は器用でもなければ賢くもない。


「そんなのいつ誰がどこで誰が決めたんですか」


 言ってしまってから、自分で自分がイヤになった。

 子どものケンカみたいな。

 何時何分何秒前の地球が何回転した後に、ってやつだ。

 だが、かすみセンパイは大真面目に答えてみせた。

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