第14話 割とタイプの少女の闖入……でもたぶんモブ

 そのとき、どピンクのジャージを来た新体操部の女の子が、教室の戸を開けた。

 ショートカットの、結構可愛い子だった。結構タイプだったりする。

 でも、目を丸くして僕を見ている彼女は、怯えた顔をしていた。

 しばしの沈黙が教室を支配する。

 その重苦しさに耐えられなくて、僕はおずおずと口を開いた。


「あの……僕に何か」

「いえ……」


 困り果てたような返事だった。まるで僕が何か悪いことをしたみたいな、妙なきまり悪さがあった。

 そこから僕を助け出してくれたのは、隣の教室から聞こえた先生の声だった。

 新体操部顧問の、若い女性の教師だ。


「どうしたの?」


 ドアの外で、ほっとした顔をした女の子は横を向いて、僕からは見えない先生に返事をする。


「あ、ミーティングこっちでしたか?」


 何かトラブルがあって、遅れたらしい。それをとがめることなく、顧問の先生は遠回しにたしなめる。


「何慌ててるの?」


 活動場所を間違えた新体操部員は再び戸を閉めた。すみませんも言わずに。

 いや、扉の外で言ったには言ったが、それは僕にではない。


「すみません、体育館の水道、赤い水が出て」


 あの反応は、完全に引いている。

 僕に対して。

 ぱたぱたと遠ざかっていく部員と顧問の足音だけが、空しく聞こえる。


「あの……」

 

 僕の声なんか聞こえるわけがないのに、つい、呼び止めてしまう。

 だが、それも、かすみセンパイが一つ手を叩いただけでかき消された。

 黒縁メガネのレンズが光っている。こんな冷血女だとは思わなかった。

 かすみセンパイは何事もなかったかのように、もっともらしく言う。


「こころとからだはつながってるのよ。はい、これで漢詩の構成インストール完了!」

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