第13話 ドラマの構成はポエムとは違う

「なんで起承転結じゃダメなんですか」


 納得しないで不貞腐れてみせる僕の顔なんか見もしないで、かすみセンパイは制服の小さな背中を向けた。まだ衣替えじゃないので、紺のブレザーだ。

 早くブラウスになってほしい、と一瞬だけ邪念が囁いたところで、センパイは鋭い目つきで振り向いた。

 背筋に寒気が走ったところで、センパイは低くつぶやく。


「劇は事件で展開する」


 そう言うなり、凄まじい勢いで黒板にカッカッと字を書き並べる。その端っこまで書いて振り向いた。ぜーはー言いながら、チョークで黒板を叩く。

 カン、という音で、そんなセンパイに見とれていた僕は我に返った。


「……え、あ、はい!」


 低い声が不愛想に返事をする。


「起承転結ってのは漢詩の構成」


 かすみセンパイが窓から離れると、そこには、大きく、こう書かれていた。




  起 大阪本町 糸屋の娘

  承 姉は十六 妹は十四

  転 諸国諸大名は弓矢で殺す

  結 糸屋の娘は目で殺す


 どういうつもりだか、さっぱり分からない。


「なんですかコレは?」


 僕の素朴な疑問を、かすみセンパイの命令が低い声で遮った。


「立て。声出して読む!」

「なんで……」


 有無を言わさない叱咤で、質問は封じられる。


「読め!」


 僕は、仕方なくぼぞぼそと読んでみた。


「おおさか……ほんまち……」


 でも、かすみセンパイは承知しない。


「もっと大きな声で!」

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