十三章 真円の戦場 第二話

 正行達は王宮内の人々と共に最低限の荷物を持って、王都北部にある王都城へと移動した。王都城は国内最大の軍事拠点である。政治と外交の中枢が王宮であるならば、軍事の中枢は王都城となる。


正行とアイトラは、城内の一室を与えられ、そこで待機を言い渡された。


 足枷――悔しい言葉だった。しかし、事実、今の正行達は足枷でしかない。本来、国を守らなくてはならない自分たちが守られ、外では兵たちが死んでいく。兵は自分達を守るため、敵の矢の的となっているのだ。


 王都中央にある王宮と違って、城からは戦闘の様子が見える。この戦の間中、正行の傍に控えているレアードは、口を結んだまま、窓の外を見ている。


――きっと、今戦っている兵の中にはレアードの友人も大勢いる


正行も窓の外を見た。城郭の上に立つ魔導兵が城郭の外に魔法を放つ。時に火柱を、時に雷撃を。一人の魔導兵が敵の矢に倒れるところが見え、何もできない自分を悔しく思った。




 翌日、敵軍鷲騎士隊に守られた巨大兵器が、次々と南の城郭に巨大な石を撃ちこみ、城郭の支援を失った国王軍は、四時間の攻防の末、ついに敵軍の突破を許した。


 城郭内で一時、乱戦となりながらも、国王軍と王宮の人々は王都北部の王都城へと退却。王都防衛戦は、王都城での籠城戦へと移行した。


 王都城は、常ならば、国王軍三万の拠点であり、国内でも有数の堅牢な城である。いかに敵軍戦力が上回っているとはいえ、簡単に攻め込めるものではない。王都を失った国王軍は、この最後の砦を守るため、戦力で上回る敵軍相手に奮戦を続けた。


 対するゲラルフ率いる反乱軍は、王の主軍が帰還するまでに城を攻め落とし、竜とその主を奪取しなくてはならない。敗北は即ち死。通常の攻城戦のように、相手の食糧や物資が尽きるまで、ゆるゆると取り囲むような方法は取れない。迫る時間に追われ、なりふり構わず攻め立てた。


 反乱軍が突入を試みるたび、国王軍は矢の雨を降らせ、煮える油を降らせ、必死に抵抗して、その侵入を許さない。反乱軍は、兵数差にものを言わせて、ますます増える犠牲を顧みず、突入を諦めなかった。



 そして、王都城が王宮の人々をその腹に抱え込み、籠城して四日が経った夜、ついに敵軍司令官ゲラルフは痺れを切らした。






「明朝、日の出まで待つ。竜とその主。そして、王女二人の身柄を引き渡せ。さもなくば、それ以後、一時間に一人、市民の首を刎ねる」



 使者を通じて、そう通告してきたゲラルフに宰相は激怒した。


「この恥知らずが!」

思わず、机を拳で叩いた。


「仮にも玉座を狙って兵を挙げた者が、民に手をかけるとは!」

「宰相殿!」


アリノが声を挙げた。

「なりませぬ。我々が度を失っては――」


そう言ったアリノも唇青く、顔には怒りをたたえている。宰相は怒りを抑え、伝令を部屋から出した。部屋に残ったのは宰相の他、アリノとサザーテのみ。もう決めなくてはならなかった。


「逃がすぞ」

宰相の言葉に、アリノとサザーテはうつむいたまま、黙っていた。


「このまま籠城を続けても、陛下が戻られるまで持つとは限らぬ」

宰相は続けた。


「三人と竜を逃がして、ここも明け渡す。私やお前たちは殺されるだろうが、市民や家臣達は助かるだろう」


二人は無言で頷いた。もはや、それしかなかった。


「サザーテ。鷲騎士から三人の護衛につける者を選別せよ」

「……はっ」


サザーテは小さく言って、部屋を出た。




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