十三章 真円の戦場 第三話

 王城の一室。正行はアイトラと共に日が暮れた空を眺めていた。ほんの少し前は幸せな気分をたくさん味わったのに、今は多くの人の死と、それを守れない自分の不甲斐なさとで心が重い。


なぜ、今なのか――なぜ、こうも無力なのか――

正行は涙が出そうになるのを必死に堪えた。


(正行)


アイトラが話しかけてきた。


(なんだ?)

正行は返す。


(雲が来てる)

(雲?)


――何をこんな時に


(雲を使って、また雷を落とせないかな?)

あの雷を思い出す。


(敵軍にか? 無理だ。あの時だって木を何本か焦がしただけだろ)

(でも、あの時より大きな雲を作って、もっと電気を溜めたら?)


確かにもっと多くの雷を落とせば、被害を大きくする事は出来る。


(どれくらいの雷を作れる?)

(たぶん――雲さえあれば、湖全体に雷を落とせるくらい)

(そんなにか!?)


ベロウワの湖は大きい。それだけの規模の雷なら、相当の被害を見込める。


(――でも、そんなに大きくできるか?)


アイトラは黙った。その規模の落雷を起こすのなら、前回よりも巨大な雲を作り、さらにその雲に大量の電気を溜めなければならない。


(雲が足りないかも……)

(雲か……)


残念そうに言ったアイトラを見て、正行は何となく思いついた事を言った。


(湖の水を使えないか?)

(どうやって?)


(魔導兵に火炎を起こしてもらう。湖面の水を蒸発させて、強い上昇気流を作って上空に大量の水蒸気を上げる)


(それなら、足りる……かも?)

(雲の下に敵の主力を誘い出し、そこに一気に落とせれば……)


(なんとかなる?)

(なるかもしれない――!)




 正行はアイトラと軍議室に急いだ。そこには宰相やアリノ、サザーテがいるはず――。


目的の部屋の前、扉を叩いた。


「入れ」


正行は扉を開けた。


「正行殿? どうなされました?」

アリノが驚いたように言った。部屋には宰相とアリノしかいない。


「サザーテ将軍は?」

「今、護衛団を作るために出ておられます」


アリノが言った。


「護衛団?」

「正行殿と、王女殿下二人を逃がします」

「な――! 待ってください!」


「敵は、明日の日の出までにあなた方を差し出さねば、市民を殺すと通告してきました。あなた方を逃がし、城も明け渡す。そうすれば、奴らも市民を殺す事まではしないでしょう」


「他の人はどうなるんですか!? 宰相やアリノさんや、ジェインさんも!」

「ジェインは大丈夫でしょうが……我々は分かりません。しかし、殺されたとしても悔いはない。もう十分に国に尽くした」


――そんな!


「ダメです!」

「もう決めました」

「撤回してください! 策があります」

「策?」


宰相は怪訝な顔をして訊いた。

正行は頷き、言う。


「将軍を呼んでください」



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