十三章 真円の戦場 第四話

 正行はサザーテが来るのを待って、話し始めた。


「まず、今の状況を確認させてください。国王軍一万対敵軍三万。この数はどう変わっていますか?」


「ざっと八千対二万弱。このくらいの数字になっていると思われます」


サザーテは答えた。序盤の攻防戦を有利に運べたおかげで、敵方の兵は味方に対して、相当数失われていた。


「敵に援軍が来るまで、こちらの有利に運んでいたと思っていましたが、それは合っていますか?」


「はい、基本的にはこちらの思惑通りに」


――竜の主とちゃんと話すのはこれが最初で最後となるかもしれない


サザーテは異界から来たという少年を目に焼き付けようとした。


「問題は敵の空騎兵が増えた事と認識していますが?」


「その通りです。城郭を突破された際、スレイベンの空騎兵も大分減らしましたが、合計すると敵空騎兵はまだ三百近い。対して、こちらは八十騎程度まで減っています」


「ならば、敵の空騎兵を減らせば、戦況は変わりますか?」


「まあ……こちらと同等か、それ以下まで減らせれば……」


 地上の戦力比は約二倍。しかし、制空権さえ取れれば、話は大きく変わってくる。

しかし、そのためには、こちらの鷲をなるべく減らさぬよう、相手の鷲をこちらよりも減らさなくてはならない。こちらの被害を出さずに、敵の空騎兵を二百以上も減らすことは無理だ。戦えば、味方にも被害が出る。こちらだけ無傷でいられるわけがない。


「減らせます」


正行は断言した。


「どうやってそんなことを?」


「竜の力を使います。前にアリノさんには話しましたが、アイトラは雷を落とす事が出来ます」


――本当に?


サザーテはアリノを見た。

アリノが口を開く。


「聞きましたが、あれは意図してやったものなのですか?」


正行は首を振った。


「いえ、あの時は初めてでした。僕たちは雷球を吐く手掛かりを探して、積乱雲に潜ったんです。雲の真ん中で電気を見つけ、その時、雷の落とし方をアイトラが理解しました」


「もう意図して落とせる――と?」


「はい、アイトラとも話しました。雲をベロウワの上空に呼びます。雲を大きくすれば、あの湖全体に落とすくらいならできると」


宰相が口を開いた。


「事実だとして――あの湖全体に落とせるほどなら、確かに強力な打撃を与えられるが――どうやってそこに敵を呼びます?」


正行は静かに言った。


「僕たちがおとりになります」


「なっ――!」


「それはなりません!」


「いえ、やります。敵が玉座のために僕たちを狙っているなら、必ず生け捕りにしようとするはずです。もちろん、こちらの鷲騎士隊も出してもらいます」


正行は言葉を切った。


「僕とアイトラが逃げる、と思わせて、相手の鷲騎士をできるだけ多く湖に集めます。理想は、相手の鷲全騎。竜が逃げるとなれば、相手も必死で追いかけてくるでしょう。鷲騎士隊はそれらを引き付けておくため、ベロウワの上空で交戦してください。それと魔導兵もお願いします」


「魔導兵ですか?」

サザーテが訊いた。


「はい。魔導兵に火炎魔法を使ってもらいます。湖の水分を蒸発させ、水蒸気を作り、さらにその余熱で上昇気流を起こします。そこにアイトラの力も加えて、湖上空に巨大な積乱雲を作る。十分に電気が貯まったら、撤退の指示を出します」


「正行殿は?」


「僕とアイトラは雷を起こすのに必要です。指示を出したら、全員が即退却してください。僕達につられて残った敵の鷲騎士達に向けて、雷を落とします。上手く行けば、相手の鷲騎士の多くを削れると思います」





 正行の策を採用するかどうか、宰相たちは揉めた。一刻も早く逃がすべきだと言う宰相に対し、意外にもサザーテが正行の案を強く推した。


「可能性があるなら、やるべきです。宰相殿もアリノ様もまだこの国に必要でしょう。正行様の身は必ず私が守ります」


 アリノは最初、中立の立場を取っていたが、正行を守るため、自ら前線に出るというサザーテに説得され、支持に回った。それでも、宰相は強硬に反対していたが、もし、失敗した場合、そのまま正行達は王都を脱出するようにと約束させ、最後は折れた。



 決行は翌日の日の出前。生き残った兵士達が集められ、作戦の説明が行われた。

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