十三章 真円の戦場 第一話

 それを最初に発見したのは、王都城郭を警戒する若い鷲騎士だった。


「南東より約二百の鷲騎士隊を確認!」

報告を受けたサザーテは一瞬、耳を疑った。


――二百……どこから!


「オルダスか!」


フルブの山に引き籠って、ほとんど姿を見せぬあの男。特に反逆心めいたものは感じなかったが、なぜ、今――


 援軍の理由はサザーテには分からなかったが、理由に関わらず、事態が急変したのは確かだった。


「王宮に向かう。警戒を続けよ」



 サザーテは急ぎ王宮外殿に向かった。外殿の一室、そこに宰相、アリノ、二人の王女、さらに若き竜の主が会している。サザーテは一つ呼吸をして、報告した。


「今朝方、敵援軍を確認いたしました。空騎兵約二百」

宰相とアリノを除いた全員が動揺を見せた。


「おそらくは明日、戦況に動きがあると思われます」

苦い言葉を吐き出した。


一瞬の沈黙の後、宰相が口を開いた。


「敵方の鷲は三百を超えるな。守れるか?」

「いえ、鷲三百とあっては城郭を守り抜く事は厳しいと存じます」


それは事実上の敗北宣言だった。



 兵数で劣っていても、城郭の支援があれば、防衛戦をする事は出来る。しかし、城郭の影響が少ない空の戦いでは、鷲の数が勝敗を決める。制空権を失う。制空権を失えば、カタパルトによる城郭の破壊が待っている。それは即ち、防衛の失敗を意味していた。


「陛下のお戻りはまだ先……」

アリノが呟いた。宰相は苦々しく頷く。


「仕方あるまい。王宮を放棄し、北の王城に引く。敵の城郭突破と同時に王城での籠城戦に切り替える。それでも厳しいようであれば、王女殿下二人と正行殿には王都を脱出してもらう」


「――な!」

ステラだった。


「宰相! 何を仰っているのです! 民や家臣を見捨てて逃げよと言っておられるのですか!?」


宰相はゆっくりとステラを見た。


「殿下、まさにそう申し上げております」

「なりません!」


ステラは食い下がった。


「民を見捨てて逃げるなど許されません! 私には王女としての責任があります! 最後まで――」

「王女ならば、聞き分けられよ!」


びくり、としたステラを宰相が見据える。


「ゲラルフがどんな男かお忘れですか? あのような男を玉座につかせるわけにはいきません」


宰相は続けた。


「ここで我々が負けたとしても、それは王の負けではない。陛下はスレイベンの民を救い、必ずや王都に戻ってこられる。その時にあなた方や正行殿が人質になっていては、王が戦う事が出来なくなるのです。あなた方は王の足枷とならぬよう、身を潜めねばならない」


宰相はメリダと正行を見た。

「お二人もお分かりですな?」


正行は唇を噛みしめ、頷いた。力のない自分が、ただの子供である自分が悔しかった。


「サザーテ、まだ城郭が突破されたわけではない。最善を尽くせ。頼む」

サザーテは頭を下げ、王城に戻った。





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