十二章 王都攻防戦 第二話

 ゲラルフの苛立ちをよそに、開戦して数日の間、王都城郭外の攻防戦は緩やかに進行した。


 国王軍の指揮を取るサザーテは、城郭に置いた魔導兵隊と弓兵隊に牽制を続けさせ、空騎兵には極力、出撃を控えるよう命じていた。敵軍の鷲騎士は二百をやや下回る。通常、諸侯軍はそれほど鷲を所有しておらず、二州合同軍とはいえ、二百も用意できなかったのだろう。


 しかし、こちらも馬人族の鎮圧に二百を持ちだしているため、現有する空騎兵は百しかいない。州軍の鷲騎士と国軍の鷲騎士では練度が違うとはいえ、数の差は戦況に大きな影響を与える。


 こちらの鷲騎士隊には十分な水と塩を摂らせつつ、なるべく日陰で鷲を休ませておき、城郭の遠距離部隊が押されかけた時のみ、出撃させ、相手の陣形を少しつついて帰ってこさせる。


 サザーテの狙いは、相手の疲労だった。敵は真夏の猛暑の中、野営するしかない。攻城兵器を守る相手の鷲を疲労に追い込んでしまえば、相手は城郭突破の切り札が使えず、ただ時間のみが過ぎてゆく。これが収穫期の前であったなら、こちらも物資の貯蔵量に不安があったが、籠城戦をしても十分な物資は確保してある。王の帰還までは早くてもひと月以上はかかるだろう。その間、じわりじわりと敵戦力を削りながら、行動不能に追い込んでいく。


 サザーテは北の王都城上階から、北側の城郭の戦いを見守りながら、王に出発前に呼び出された時の事を思い出していた。







「敵軍三万、鷲は二百だ」

「は?」


サザーテは何の数字か、一瞬分からなかった。


「おそらく王都に襲撃がある。三万と二百。これがお前の片付けねばならぬ仕事だ」


「襲撃――? なぜ、その数だと?」

サザーテは訊いた。


「馬人族五万は、国軍二万を誘き出すための陽動だと仮定した。敵に自信があるのなら、馬人族を使って陽動を起こす必要はない。五万もの馬人族を動かしたということは、奴らにかなりの報酬を約束したのだろう。という事は、敵はなんとしても、普段の遠征で使う国軍一個師団ではなく、二個師団を王都から誘い出したい。国軍二万相手では勝てぬが、一万相手なら勝てる数。それが三万だ」


通常、城郭攻めには敵の三倍の戦力が必要と言われる。本当に馬人族が陽動なのだとしたら、その数字はサザーテにも妥当だと思えた。州軍三万ならば、鷲二百も妥当なところだろう。そして、魔導兵は二百よりも少ないはずだ。


鷲騎士は自らの領地を持っているため、自分の仕える諸侯に忠誠を誓うが、平民出身者も多い魔導兵はより待遇の良い国軍を選ぶことが多い。


王はサザーテの目を見て言った。


「一個師団一万、鷲、魔導兵それぞれ百をもって、お前に王都の防衛を命じる。敵方三万、鷲二百であれば、防衛戦ならほぼ互角。必ず勝てるという数字を残してやれぬのは悪いが、勝たなくて良い。わしは馬人共を叩いたら、すぐに王都に帰還する。それまで二月ふたつき持たせよ」


そう言って、王は出征した。





――またも陛下の言われた通りとなった


 王の読みは当たる。サザーテが国王軍に招聘しょうへいされて以降、王が戦で読みを外したところを見たことはなかった。


敵軍三万に鷲二百。


自分は、この敵から王都を守らなくてはならない。今、この王都には、民が十四年間、待ち望んだ新たな竜と、その主がいる。これを守る事がすなわち我が王の玉座を守る事である。


――王はこの凡将に王都をお任せくださった


自分には王のような直感も、天性の閃きもない。自分が大将軍の器ではない事は百も承知していた。


――しかし、我慢比べならば、ゲシュリエクトの若造には負けぬ自信がある


サザーテは日没まで戦況を見守り、王都城に与えられた自室に下がった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る