十二章 王都攻防戦 第一話

 ベロウワ湖に雷が落ちた数時間後、スレイベン、ディメリア両州合同軍は王都を包囲した。


南にスレイベン軍、北にディメリア軍、それぞれ約一万五千の兵が布陣した後、両軍の代表者ゲラルフ・ゲシュリエクトは、一通の矢文を射てよこした。


 その要求は以下のものだった。


「国王シフナスは、王としての義務を果たせず、前風竜公をわずか七年で失ったばかりか、十四年の長きに渡り、次竜の主を見出す事、あたわず。国内を魔族によって蹂躙じゅうりんされ、ついに見つけた主は異界の少年である。スレイベン州候ゲラルフ・ゲシュリエクト、ディメリア州候セス・カークラスの名において王権の放棄、王都の放棄、竜とその主の身柄の引き渡しを要求する」


 宰相は不在の国王に代わって、要求をはねのけ、翌日、スレイベン軍の矢を皮切りに、開戦した。




 風竜国王都は、その周りを円状に城郭で囲われた城郭都市である。高さ約十五メートルほどの城郭は、王宮を中心とした市街地、王都城、ベロウワ湖をぐるりと囲み、北、南、西に大門を構える。


 十五メートルという高さは、鷲獅子の飛行高度であれば、難なく飛び越える事はできるが、城郭上空は国王軍の鷲騎士隊が守り、さらに城郭上部に配置された魔導兵隊と、大型弩砲バリスタが、下から国王軍の鷲騎士隊を支援する。


 反乱軍百八十騎に対し、国王軍百騎。数では二倍近く優ってはいるが、国王軍の鷲騎士隊は精鋭揃いであり、下からの支援を存分に受けられる国王軍の鷲騎士隊に対して、反乱軍は攻めあぐねた。






「カタパルトを使え」


南に設営されたスレイベン軍司令部の中央でゲラルフは言った。


 カタパルトとは、攻城戦で使われる巨大兵器で、巨大な矢、あるいは投擲物を三百メートル以上も飛ばす射出機である。


「しかし、まだ敵の空騎兵の数が確認できておりませんが……」


セネイは言った。戦場を嫌う主に代わって、通常、スレイベン軍の指揮を取っているのはこの男だったが、今回は国王への反逆軍であり、その旗頭として当主ゲラルフが自ら出陣、セネイは補佐官として従軍していた。


 カタパルトのような大型兵器は強力な威力を誇る反面、移動と準備には時間がかかる。その隙を狙って、空騎兵から攻撃を受ければ、ひとたまりもない。よって、まずは相手の航空戦力を確認し、安全を確保してから使う必要があった。


「では、さっさと確認しろ!」

ゲラルフは苛立ちまぎれに怒鳴りつけた。


――この真夏に包囲戦など……


 ゲラルフは既にうんざりしていた。

季節は既に七月の後半。太陽は容赦なく照り付け、夕方になれば、度々、強い雨が降る。


着慣れぬ鎧は重く、そして、蒸し暑かった。


反乱軍の旗頭として、自ら出向かざるを得なかったものの、戦場など、本来、自分がいるべき場所ではない。


 王の目につかぬよう、炎天下の中、わざわざ迂回して行軍し、ようやく王都まで来たと思えば、まだ野営を続けなくてはならない。ギサに言われるまま、王都に進軍したものの、ゲラルフはもう野営が嫌になっていた。


「くそっ」


 汗臭い兵隊どもの匂いも、粗末な食事も、この蒸し暑さも、全てがゲラルフを苛立たせていた。





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