第15話 残り二日 小西さんの情報
残り二日 金曜日
突然バイブが震えた。
リュックからスマホを取り出すと、それはショップ柴田のおばちゃんからの電話だった。
「萌ちゃんは大丈夫か?ここ数日来えへんから心配しとったんや。そうそう、昨日な、小西の一雄君と話したわ。それでな、今日の午後二時に佐紀陵山古墳の脇にある喫茶去庵で待っとるということや」
この日、僕は朝から、佐紀陵山古墳を中心とした半径一キロ辺りにある民家を訪れ聞き取り調査をしていた。奈良に伝わる昔話を調査している院生という体で聞いて回っていたのだが、住人は異様なくらい無反応だった。
ドア越しに話せた人もいたが、「そんなことは知らん。あんたもそんなの調べるのはやめときや」と一方的に言われるだけだった。やはり、ここでは、姫の呪いに関連する話はタブーなんだろうか。ほんの少しでもいい、何か希望となるような情報を得たかったのだが僕はあきらめるしかなかった。やはり、小西さんにかけるしかない。
「カラン・カラン−」
ドアを開けると乾いた音が響く。こんな場所に喫茶店があったのか。しかも凄く居心地が良さそうな空間だ。見渡すと四人がけが一つ、そして二人がけが三つ、あとはカウンターに三席というこじんまりとした喫茶店だ。僕は初めて入った喫茶去庵を一目で気に入っていた。僕は、一番奥にある二人がけのテーブルで小西さんを待つことにした。
「いらっしゃい。初めての顔やな?なんにします?」
優しそうなマスターが冷たいレモン水を持って来て尋ねる。
「そうなんです。最近近くに越してきたばかりなんで。えっと、水出しアイスコーヒーをシロップ抜きで下さい」
マスターは、「うちの看板メニューを頼むとは通やな」と笑いながらカウンターの中へ入っていく。僕は、これまで分かったことをまとめたノートをリュックから取り出し、ぱらぱらとめくりながら内容を頭に入れていた。その時、カラン・カランと音が響き、小西さんが入って来た。すぐに僕を見つけたようで、大きな手提げカバンを床に置き、席に座る。
「ごめんな。待たせたかな。あっ、マスター。水出しレイコー、シロップ抜きで」
慣れた感じで小西さんはマスターに注文をする。マスターも笑顔で頷いている。
「この店にはな、もうかれこれ十年近く通ってるからな。ここはそこそこ全部美味しいんやけど、レイコーの旨さは絶品や。特に水出しはな。柔らかな苦みが広がるけど雑味がないというか……。美食家じゃないから上手く言われへんけどな。でも、ここのレイコー飲むと他のレーコーはもう飲まれへんで」
小西さんは前に会った時とは全く違う雰囲気で僕に話しかけてくる。
「おいおい。卵サンドもまあまあの味なんかいな?いっつも美味しい美味しいって食べてるくせに」
マスターも笑顔で応戦している。
「あっ、僕、それ、食べます。お昼まだだったんで」
話を聞いているだけ食べたくなってしまった僕は咄嗟にオーダーをしていた。
「おおきに。レイコーと同時に出すからな。ちょっと待ってな」
マスターはパンを切ってトースターに入れている。どうやらここのサンドイッチはホットサンドのようだ。僕はこれが大好物だったので、出来上がりがとても待ち遠しい。
「あっ、小西さん。先日は、色々とご迷惑をお掛けして大変申し訳ありませんでした。そして、倒れた僕の面倒まで見て頂いて、本当にありがとうございました。」
僕は心から感謝の気持ちを込めてお辞儀をする。小西さんは、いいってとちょっと照れて片手を振っている。
「あのさ、神谷くんでいいんかな?早速本題に入ろうか。昨日、柴田のおばちゃんに初めて聞いたんやわ。おばちゃんも見えてたんやな。そして、あっちの人と話ができるんやな。実は、これまで、この件でおばちゃんと話したことがなかったから初めて知ったんや。おばちゃん曰く、それを色んな人に話せば、さらに変な噂が立つかもしれへんし、身内からもぼけたとか言われると嫌やからって自分の胸にだけにしまってたんやて。だがな、今回、萌さんだっけ?その女の子をなんとか天国に行かせたいんやと俺に話をしてきたんや」
僕は、おばちゃんと初めて会った時を思い出していた。最初、素っ気ない感じだったのは、理由があったのか。
「はい。おまちどうさん。レイコー2つと卵サンド。デザートは初めてさんへのおまけや」
運ばれてきた卵サンドからは美味しそうな匂いがしている。卵は半熟で粗挽きのコショウがかかっているようだ。そして上には薄いロースハムが乗っている。バニラに柚子を添えたアイスクリームもとても美味しそうだ。
「ほら、パンが冷めへんうちに食べや。昼まだなんやろ?」
小西さんが言ってくれたので、早速手に取り口に入れてみる。
僕は、思わず「美味しい!」と口に出してしまった。
もしかしたら、今まで食べた中で一番美味しいサンドイッチかもしれない。何より暖かい気持ちになる優しい味だ。いつか萌にも食べさせてやりたい……、僕は萌の事を思い浮かべていた。
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