第12話 残り四日 警告
残り四日 水曜日
僕は夜中から酷い熱で身動きが取れない状況になっていた。とにかく頭痛が酷く一睡も出来なかった。
日頃全く使わない体温計を漸く探しだし、シャツをめくり計ってみる。するとなんと40度を超えているではないか。その数字をみてさらに気分が悪くなった気がした。正直、ここ数年の間、ここまで高い熱を出したことはない。そして、こんなに酷い頭痛も経験したことがないのだ。もしかして、僕が萌を助けるために手伝っていることを快く思っていない何かが警告を発しているのかもしれない。
僕は冷蔵庫から、前に使ったきり置いていた熱さまシートを一枚取り出した。長期間、袋の先を折っただけだったので、ゼリー状の上の部分が固くなっているが使わないよりはましだろう。
時計を見ると午前四時を少し過ぎたところだった。陽が昇るまであと約一時間だ。今も萌は暗闇の中でうずくまって耐えているのだろうか?その姿を思い浮かべるだけで本当に何とも言えない気持ちになる。早く陽が昇ればいいのに……。
僕はそれから二度寝をしてしまい汗びっしょりになって目が覚めた。体温計で測ってみると三十八度二分とさっきよりましにはなっているものの、熱はまだまだ高い。それに、頭の奥がずきずきと痛む。その時、階段を登ってくる気配に気づいた僕は、枕元に置いていた銀縁眼鏡をかけ、ドアの方を見つめる。
「ねえ、大丈夫? 熱が出たんやろ?凄く唸ってたで。食欲ないかもしれんけど、少しは口に入れんとな。これ、萌特製のお粥さん」
ベット脇の小さなローテーブルに置かれたお盆には、お粥と梅干し、そしてスポーツドリンクのペットボトルが置いてあった。
「あ、ありがとう。僕がなんとかするとか言っておいて、二日目からこんなことになってしまってごめんな」
「いいから。今はその熱を下げる方が大事やろ?あと、パジャマ一度着替えた方がいいんとちゃう?で、このお粥を食べればすぐに熱が下がるから大丈夫。なんと言っても萌オリジナルのお粥やからな。萌のお父ちゃんも熱があった時これを食べたら次の日はぴんぴん元気になってたから!」
萌は少し自慢げに僕を見ている。パジャマを着替え、茶碗を手に取ると何故か無性に食欲が湧いてきた。
「萌、ありがとう。いただきます」
僕は箸を取りお粥を口に入れる。
卵、ネギという凄くシンプルな材料が絶妙な薄口の出汁に包まれている。隠し味はしょうがだろうか?
「うまい!」
思わず僕は声が漏れた。お世辞抜きで本当に美味しかった。
「そう?良かったぁ!」
萌はとても嬉しそうにしている。
「じゃぁ、今日はゆっくり寝ててな。萌はちょっと出かけてくるから」
「おい、無理するなよ。後で僕も行くから」
だが、平熱が三十五度台の僕にとって、三十八度台の熱はかなりきつい。やはり、こんな状態では今日は無理かもしれない。残り四日しかないのに……。
お粥を食べたからか、いつの間にか僕はまた深い眠りに落ちていた。
結局目が覚めたのは午後八時だった。約十二時間も眠ってしまったようだ。僕は、まだだるい身体を起こし、階段を降りていく。もう萌はいない時間だ。僕のせいで貴重な一日を無駄にしてしまった。明日、もし熱があったとしても僕は死ぬ気でやらなければならない。ふとテーブルに置いてある食器が目に入った。ラップされた皿の上に手紙が置いてある。
「今日の収穫は無し。でも、大丈夫。萌は最後まで諦めへんから。今からまた暗い世界へ行くけど頑張る。肉はきついやろうから冷凍庫にあったシャケにしたよ。レンジで温めて食べてな。 萌 」
僕は、ゆっくりと椅子に座り、その手紙を何度も読み返していた。
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