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でもゴエモンもいるな、とルルちゃんは思いました。ゴエモンもお姫様を欲しがるでしょうか。どうもあんまり欲しがらないような気がします。
ゴエモンはお姫様に興味がなさそうです。世の中にはたくさん魔物がいますから、そのような魔物もいるでしょう。魔物は実に様々なのです。
玄関を出て、三匹は庭へと向かいました。と、ルルちゃんはいつの間にか自分が先頭になっていることに気づきました。ゴエモンとキレイがルルちゃんの後ろに回り、ルルちゃんを押し出すように歩かせます。
「どうしてルルが先頭なの?」
ルルちゃんがたずねます。キレイが言いました。
「この中で、きみが一番ゆうかんだからだよ」
ルルちゃんはゴエモンを見ました。ゴエモンもゆうかんなはずです。目が合うとゴエモンはかみつくように言いました。
「どうしてわしのような年寄りを危険にさらそうとするんじゃ!」
そこでルルちゃんは自分が先頭になることにしました。一番ゆうかんだと言われれば悪い気はしません。
ルルちゃんは険しい顔で、庭に足を踏み入れます。キレイとゴエモンはその場に立ち止まって待っていました。
木々が葉を落とし、秋の庭は、いくぶんさびしい様子になっていました。ルルちゃんは勇ましく、勢いのおとろえた芝の上を歩き回ります。あちこち見て回り(さいわい広くない庭でした)、二匹に声をかけました。
「なにもないよ」
庭はいつもと同じです。異常はないようです。キレイとゴエモンもやってきました。
「じゃあ、あの音はいったいなんだったんだろう」
キレイが言いますが、だれも答えられません。三匹ちらばって、もう少し庭を捜索することにしました。
「あっ!」
ルルちゃんが声をあげました。みなれぬものを見つけたのです。それは小さなものでした。ルルちゃんはそれを拾い上げました。
二センチほどの大きさで、四角く薄く、黒い色をしていました。ところどころにでっぱりやへこみがあります。
「これなんだろ?」
ルルちゃんがゴエモンとキレイに拾ったものを見せます。ゴエモンはそくざに言いました。
「ゴミじゃな」
「うん……ゴミっぽく見えるけど、でも不思議なものな気もする」
ルルちゃんはそう言って、じっくりとその謎のものを見ました。
「収穫はこれだけみたいだね。ぼくはなにも見つけられなかった」
キレイが言います。「お姫様はいなかったね。残念だったけど……。きみのお姫様はいなかった。でも代わりにきみの……きみの、えっとなんだこれ」
キレイがルルちゃんの持っている黒くて四角いものを見て首をかしげます。横からゴエモンが言いました。
「不思議なゴミ」
「うん。不思議なゴミは見つかったんだ。きみの不思議なゴミだよ。大事にするといいよ」
キレイが真面目な顔をして言ったので、ルルちゃんも真面目な顔をしてうなずきました。
晩ごはんの後、居間で、ルルちゃんは拾ったものをカイとナミに見せました。大きな音がしたことも話しましたが、カイとナミは聞いていないと言いました。学校までは届かなかったのでしょうか。
「パズルのピースみたいだね」
謎の四角い黒いものを手に取って、表を見たり裏を見たりしながらカイが言いました。
「わたしにもよく見せて」
ナミが言って、カイはナミにそれを渡します。ナミもじっくりながめながら言いました。
「たしかにパズルのピース……だけど、紙でできてるわけじゃなさそうね。金属かな。石のようにも見えるけど……」
二人にもよくわからないようでした。
後日、キレイが言うことには、キレイの家の人たちもだれもあの音を聞いていないのです。また、近所の魔物たちにたずねても、やはり誰もあの大きな音を聞いていませんでした。
結局すべてが謎のままでした。とりあえず、ルルちゃんは、キレイに言われたとおり、拾った黒いものを大事にしようと思いました。けれども、お母さんがくれたルルちゃんのおもちゃ箱の中にいれて、数日後にはすっかり忘れてしまいました。
――――
夜中、ルルちゃんはぱちりと目を覚ました。
部屋の中は暗く、外の明りがカーテンのすきまからうっすら入り込んでいます。今は何時でしょう。まったくわかりません。カイの、すこやかな寝息が聞こえてきます。
ルルちゃんは起き上がりました。いつもはいったん寝たら朝まで起きないのです。だからこんな時間に目が覚めることはおかしなことでした。
部屋の中を見まわします。ふと、あるものが目に止まりました。
壁の一部が青白く光っているのです。ルルちゃんはどきりとしました。お化けでしょうか。
でもそんなに恐ろしい気持ちになりません。ルルちゃんは興味をひかれて、その光に近づいてみました。
床から近いところが、30センチほどの楕円形になって光っています。ルルちゃんはその光に向けて手を伸ばしてみました。と、おどろくことが起きました! 壁がなくなっていたのです!
いつもなら、壁が手にふれるはずですが、光っているところにはなにもありません。壁が溶けたように消えています。ルルちゃんはますます不思議に思いました。さらに手を伸ばすと、手が、壁の向こうへ消えていきます。
そうして気づけばいつの間にか、ルルちゃんは光の中に入っていました。
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