第六話 ルルちゃんと星のかけら

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 一日一日と日が長くなっていきます。秋も終わりに近づいてきた、ある日のことです。


 暖かい午後でした。人間たちは会社や学校に行っており、家にはルルちゃんとゴエモン、そして遊びにやってきたキレイの三匹がいました。三匹ともお昼ごはんをしっかり食べて、とても満足した気持ちになっていました。


 三匹はカイの部屋に集まり、そこでそれぞれが、それぞれの好きなことをしていました。とても魔物らしい過ごし方だといえます。ゴエモンは木の刀をふりまわしていました。キレイは色えんぴつを持って、次にユメにつくってもらう首輪はどんなものがいいかと考えていました。


 ルルちゃんはベッドで仰向けに寝転がっていました。一生懸命、考え事をしていたのです。


 ルルちゃんはウララちゃんにいろいろな歌を教えもらいます。あるとき、そのうちの一つを歌っていると、ナミがルルちゃんに言いました。


「それ、わたしがウララちゃんに教えてあげた歌」

「そうなの?」


 ルルちゃんは歌うのをやめてナミを見上げます。ナミが笑顔で言いました。


「ウララちゃんから歌を教えてもらえるだけじゃなくてね、こちらもウララちゃんに歌を教えてあげることができるの。ルルちゃんもなにか、知ってる歌をウララちゃんに教えてあげたら?」

 

 それはよい考えでした! けれどもルルちゃんはあまり歌を知りません。そのことを言うと、ナミがアドバイスしました。


「ルルちゃんが自分で歌をつくればいいじゃない」


 その言葉にルルちゃんはおどろきました。そうなのです! ないのなら、つくればよいのです!


 ルルちゃんは想像しました。自分がつくった歌を歌っているウララちゃんの姿を。それはすばらしいことでした。震えがくるくらいにすばらしいことでした。ウララちゃんが、あの可憐な声で、ルルちゃんがつくった歌を歌うのです。


 そこでルルちゃんはウララちゃんのために歌をつくろうと決心しました。なんの歌がいいでしょう。テーマはもう決まっています。考えるまでもありません。ウララちゃんのことを歌った歌にしましょう。


 ウララちゃんがどんなにかわいくてすてきで特別か、それを歌にして歌うのです。ルルちゃんはまず歌詞を考えることにしました。ウララちゃんの良いところをいくつも思い浮かべます。考えているうちになんだか恥ずかしくなってきました。


 それに歌詞をつくるのは思っていたよりもずっと難しいことでした。どうしてもうまく、ウララちゃんの魅力を言い表すことができないのです。


 曲のほうはもっと難しいことでした。一つのフレーズも、ルルちゃんの頭に思い浮かびませんでした。けれどもルルちゃんはあきらめず、ゆっくり考えることにしました。


 その日も、ベッドに寝っ転がって、歌詞と曲を考えていました。目をつぶっていたので、そのうち眠くなってきました。辺りは静かです。いつの間にかルルちゃんは、夢の世界に入っていました。


 そこではすでに、ルルちゃんの歌が、すばらしいウララちゃんのことを歌った歌が、完成していました。ルルちゃんがウララちゃんに歌って聴かせます。ウララちゃんは静かに聴いていました。


 ルルちゃんが歌い終えると、ウララちゃんが言います。その声は感動にあふれ、目にうっすら涙が光っていました。


「――とてもすてきな歌ね! わたし、すごくうれしい――」


 と、その時です。いきなり、どかん! と音がしました。これは夢の中の出来事ではありません。夢の外で、現実で、大きな音がしたのです。


 ルルちゃんは「ひゃっ!」と言って、飛び起きました。


 ゴエモンもキレイもおどろいていました。音は、家の中ではなく外からのものでした。三匹は、いっせいに窓へと近づきます。


 窓の外には庭が広がっています。特に変わったことはないようです。けれども気になります。三匹は顔を見合わせました。


「今の音、なんだったの?」


 ルルちゃんが言います。けれども他の二匹も当然、答えることができません。


「なにかが落っこちたのかもしれない。なにか大きなものが」


 キレイが言いました。ルルちゃんがそれに応えます。


「でも外にはなにもないみたい」

「うーん……。よくわからないけど、でも、なにか大変なことが起こっている可能性もある。ちょっと見に行ってみようか」

「うん」


 三匹は――ルルちゃんとキレイだけでなく、ゴエモンも――窓を離れ、部屋の扉へと向かいます。キレイがルルちゃんに言いました。


「ひょっとしたらどこかのお姫様が落っこちてきて、助けを求めているかもしれない。ルルちゃん、きみが助けてあげて、きみのお姫様にするといいよ」


 キレイとルルちゃんはよくごっこ遊びをします。その中でしばしばお姫様を助けては、その後結婚していました。キレイはそのことを言ったのです。


 でも――。三匹で階下に下りていきながらルルちゃんは思いました。でも、ルルのお姫様はもういるんだけど……ウララちゃんが。そう考えて、ルルちゃんはぱっと赤くなりました。


 ですので、お姫様はもう十分間に合っているのです。もし助けを求めいているお姫様がいるなら、それはキレイに譲ろうと、ルルちゃんは思いました。(お姫様がうんと言えばです。お姫様の意思も重要です)

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