5
ライカが、少しほほえんだように見えました。シズクちゃんも、こちらも早口に言いました。
「わたしもルルちゃん好き」
「うん」
そこから特に話がはずむことはありませんでした。ただ、お互い妙に照れていました。カイは、じゃ、また、と言うと、急ぎ足に家へと帰りました。
――――
家に着き、カイはルルちゃんを探します。どこにもいません。ふと思いついて、ロフトに呼びかけてみました。
「ルルちゃん」
ロフトから声が返ってきました。ルルちゃんの声です。
「いないよ」
「ちょっと待って。今行くから」
カイははしごを外して、ロフトの出入り口にかけようとしました。けれども重くて手こずります。ルルちゃんがロフトから出てきて手伝ってくれました。
けれどもすぐにロフトに戻ってしまいます。カイははしごをのぼります。薄暗いロフトをのぞくと、ルルちゃんが荷物にもたれて座っていました。
不機嫌そうな顔をしています。けれどもカイはかまわず話しかけました。
「いるんじゃん。いないよ、なんて言ってたけど」
「ルルはいないよ。ここにいるのは、ヌヌ」
「なにそれ」
カイは笑って、ルルちゃんのそばに近づきました。そして並んで腰をおろします。
「ごめんね」
カイはルルちゃんに言いました。「昨日、ひどいことを言って。あやまりたかったんだ」
「……。ルルにあやまるんじゃなくて、ウララちゃんにあやまって。ウララちゃん、気にしてないって言ってたけど」
「うん。あやまっとく」
カイの心はだいぶ落ち着いていました。シズクちゃんの相棒を見たからです。
見ると、不思議と落ち着いたのです。たぶん今までその姿がわからなかったのがよくなかったのです。
わからなかったから、怖かったのです。でも今はわかります。それは立派で大きくて美しい魔物でした。そしてもう、あまり怖くはありませんでした。
もやもやとしていた気持ちが、どこかに居場所を得たのです。いえ、完全に居場所を得たわけではありません。それはまだ多少もやもやとしています。そしてこれで終わりというわけでもないでしょう。またふたたび、シズクちゃんやその魔物のことで落ち着かなくなってしまうことも、たぶん、あるでしょう。
カイはそういったことを考えていました。けれどもそれをルルちゃんに打ち明けることはためらわれ、その代わりに自分でも意外なことを言いました。
「たぶんさ」カイは口を開きます。「やきもちやいてたんだよ。ウララちゃんに」
「ウララちゃんにやきもち? どういうこと?」
「ルルちゃんがウララちゃんばっかり構うから」
「そうだったの!?」
ルルちゃんがびっくりした声で言いました。そしてからだごと、カイのほうを向きました。
「ほんとにそうなの!? ごめんね、気づかなかったの。でも、ルルはカイが好きだよ! ウララちゃんも好きだけど、カイも好き! だって――」
「ぼくらは相棒だし」
「うん!」
ルルちゃんが力強くうなずきました。カイはルルちゃんの目を見て、照れくささがわきあがってきました。
ウララちゃんにやきもちをやいていた、というのは言い訳でもありますが、けれどもどこかにそういう気持ちがあったように思えてきました。ルルちゃんの黒い目が、まっすぐ、こちらを見つめてきます。
お互い、なにも言わず見つめ合っていましたが、ルルちゃんも照れくさくなったのか、視線を外し、からだの向きをかえてまた荷物にもたれました。
薄暗い小さな部屋に一人と一匹、なにも言わず、並んで座っていました。どちらも同じ方向を見ていました。
家の中は静かでした。まだナミは帰っていません。お父さんとお母さんもいません。ゴエモンはどこかで寝ているのでしょう。
カイはシズクちゃんのことを考えていました。シズクちゃんの美しい相棒のことも考えました。
シズクちゃんはどんな大人になるでしょう。どんな職業につくでしょう。一方自分はどうでしょう。そのときまで二人は一緒にいられるでしょうか。
まだ、なにもわかりませんでした。
ふいに、ルルちゃんが言いました。
「あの、あのね。ゴエモンにもあやまっといたほうがいいと思う。怒ってたから……」
カイは笑いました。
「わかった。そっちもあやまっとくよ」
「よかった。ゴエモンもたぶんすぐ許してくれると思うよ。これで一件落着だね」
「そうだね」
カイとルルちゃんの手がふれあいました。一人と一匹はなにもいわず、互いの手をにぎりました。
未来はまだなにもわかりません。けれどもただ一つ、カイにはわかっていることがあります。
それは、自分が大人になったとき、ルルちゃんはこの世界にはもういないのだ、ということです。
――――
カイとシズクちゃんとそれからルルちゃんのお話はこれでおしまいです。次は少し変わったお話です。
ある日、ルルちゃんとその仲間たちは庭で、謎の物体を拾います。そしてルルちゃんはその後、不思議な世界へ迷い込むのです。
次回もどうぞお楽しみに。
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