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 ウララちゃんは歌をたくさん知っていて、ルルちゃんにも教えてくれました。一緒に仲良く歌を歌います。ウララちゃんはダンスもたくさん踊れます。こちらも教えてくれました。


 最初、ルルちゃんはとまどいました。ダンスというのは、ウララちゃんのように、細くて長い手足と、へこんだおなかを持ってる人がやるものだと思っていたからです。ルルちゃんは手足が短いですし、おなかもまんまるです。ウララちゃんのようにかっこうよく踊れるでしょうか。


 でもルルちゃんはウララちゃんにうながされて一緒に踊りました。それは楽しいものでした! ルルちゃんはすっかりダンスが好きになり、ウララちゃんがいないときも一匹で踊りました。


 あるとき、カイの部屋で踊っていると、そこにカイが入ってきました。ルルちゃんが手をあげたり足をあげたり、とんだりはねたりからだをひねったりしているのを見て、カイはたずねました。


「なにやってるの?」

「ダンス」


 カイは笑い転げました。これはよくないことですね。ルルちゃんはいやな気持ちになって、たちまち踊るのをやめました。


 それからしばらくは、まったく踊りませんでした。あるとき、ウララちゃんがききました。どうして踊らないの? と。ルルちゃんは答えました。


「……あのね、ルルは手足が短くておなかがまるいからね。そういう生き物は踊らないの。かっこよくないから」


 ウララちゃんは目を丸くしました。


「どうして? どうしてそんなふうに思うの? かっこよくないなんて、そんなことないわよ」

「でも……」

「一緒に踊りましょうよ。そのほうが楽しいの」


 ウララちゃんは言います。ルルちゃんはウララちゃんを見ました。笑顔のウララちゃんにはあらがいようのない魅力があって、ルルちゃんは従わざるをえませんでした。


 ウララちゃんとルルちゃんはまた仲良く一緒に踊りました。




――――




 ルルちゃんは、ウララちゃんともっと仲良くなりたいなと思いました。今でも十分仲は良いとは思うのですが。けれどもウララちゃんがもっとずっとルルちゃんを好きになってくれれば、ルルちゃんも今よりもっとずっと幸せな気持ちになります。


 もっと仲良くなるにはどうすればいいでしょう? ルルちゃんはナミに相談しました。だれかともっと仲良くなるにはどうすればいいの? と。ナミは言いました。


「その人の好きなものをあげる、とか?」


 ルルちゃんはウララちゃんの好きなものはなんだろうと考えました。なにをあげれば一番喜ぶでしょう? 考え、次の日になっても考え、お昼ごはんを食べ終えても考えましたが、よいものが思い浮かびませんでした。そこでルルちゃんは、直接、ウララちゃんにきいてみることにしました。


 一人と一匹で、カイの部屋にいました。カイは学校です。ウララちゃんは半袖のシャツとズボンで、自分の部屋(ウララちゃんには自分の部屋があります。本のすみに扉のイラストがあって、そこにふれるとウララちゃんの周りに部屋の映像が浮かぶのです)のじゅうたんの上に座っていました。


 ルルちゃんもそばに座って、他愛もない話をしながら、なんでもないことのようにきいてみました。


「ウララちゃんの好きなものって、なに? もらって嬉しいもの」

「そうねえ……」ウララちゃんが少し考えます。「チョコレートかしら」

「チョコレート! ちょっと待っててね!」


 ルルちゃんはとびあがってそう言うと、一階に下りていきました。今日はお母さんがお休みの日で、食堂のテーブルで本を読んでいました。ルルちゃんは食堂に入って、お母さんに言いました。


「チョコレートちょうだい!」

「おやつはまだよ」


 お母さんは言いました。


「そうだった」


 ルルちゃんはくるりと背を向けて帰ろうとしました、が、すぐに戻ってきて、お母さんに言いました。


「じゃなくてね、お友だちにあげるの」

「お友だち?」

「――ウララちゃん」


 ちょっぴりはずかしかったのですが、ルルちゃんはウララちゃんの名前を出しました。お母さんは笑って、


「いいわよ。一粒、持っていきなさい。冷蔵庫の中に入っているから」

「うん!」


 ルルちゃんはたちまち冷蔵庫へ飛んでいき、チョコレートを取り出しました。


 甘くておいしいミルクチョコレートです。ウララちゃんはきっと喜ぶでしょう。


 部屋に戻り、ルルちゃんはウララちゃんの前にチョコレートを置きました。そして、ぜんぜん大したことじゃないんだよ、みたいな態度で、そっけなく、言いました。


「これあげる」

「ありがとう」


 ウララちゃんはにっこりほほえみました。けれども、チョコレートに手を伸ばそうとはしません。もちろんそれを見はしたのですが、ウララちゃんはお礼を言っただけで、動こうとはしません。


 時間だけが過ぎていきます。


 ウララちゃんはなにも言いません。ルルちゃんもです。ルルちゃんはチョコレートを見ました。このままだと溶けてしまうのではないでしょうか。ウララちゃんはチョコレートを食べないのでしょうか。食べずに、ただ溶けてしまうのだとしたら、それはもったいないことです。


 ルルちゃんはじっとチョコレートを見ました。そのうち、自分が少しおなかが空いていることに気づきました。


「……あの、あのね……」


 ルルちゃんはためらいながら言いました。「そのチョコレートね、いらないなら、ルルがもらっていい?」


「どうぞ」


 ウララちゃんはまたもほほえんで言いました。ルルちゃんはチョコレートをつまみ、自分の口の中にいれました。本当に、甘くておいしいチョコレートでした! チョコレートはすぐに、ルルちゃんの口の中でなくなってしまいました。


 ウララちゃんの前にはなにもありません。チョコレートは消えました。今ではそれは、ルルちゃんのおなかの中にあるのです。そのことを考え、ルルちゃんは、悲しい気持ちになりました。

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