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「ウララちゃんはね、いつもは学校に行ってるの」
ナミがルルちゃんに説明しました。ウララちゃんは歌い終え、ナミの話を聞いているようでした。
「ほかにもお買い物に行ったり。そのときは学校やお店のマークが出るからね。近くに携帯電話のマークも出るからそれをさわって、ウララちゃんに電話したりメールしたりしてみて。授業中だったりして電話には出られないこともあるけど。
それからかぎの説明もしなくちゃね。かぎには一つ一つ衣装が入ってるの。ちなみにこのかぎは――」
ナミは金色のかぎを取り上げて、中の衣装はどんなものか話し始めました。ルルちゃんはそれを夢中で聞きました。
――――
ウララちゃんがどういうものか、ここでみなさんに説明しておきましょう。ウララちゃんは魔法でできたお人形です。魔法でつくったのです。ですから、インパラと違って実際には存在しません。
ウララちゃんには簡単なプロフィールが最初から入っています。これまでどういう人生を歩んできたかの設定もありますし、それをウララちゃんが語ることもできます。また、いくつかのお話も入っています。歌も歌えますし、ダンスもできます。
衣装にもまた、お話や歌やダンスなどがついてくることがあります。さらに、ウララちゃんにこちらが、お話や歌やダンスを教えることもできました。またウララちゃんは人間との会話から、適切な受け答えを学習することもできました。魔法の力はすごいですね。
ルルちゃんはそういったことを知りません。ルルちゃんは、ウララちゃんは外国に住んでいて、魔法の本を通じておしゃべりができるんだなあと思っていました。
ルルちゃんはウララちゃんをすっかり気に入り、いつも持ち歩きました。ゴエモンやキレイにも見せました。キレイに見せるときは少し心配でした。キレイのつのを見て、ウララちゃんが、ルルちゃんのつのより立派ね! と言わないかしらと思ったからです。けれどもウララちゃんはそういったことを言いませんでした。
ウララちゃんは誰に対してもやさしい女の子でした。誰に対しても、態度が変わるということがありませんでした。ルルちゃんは、そこがウララちゃんのいいところだと思っていました。けれども心の奥底でちょっぴり、ルルにだけ少しだけ、他の人よりやさしくてもいいんだけどな、と思っていました。
カイたちの家から電車で一時間ほど行ったところに、カイとナミのおばあさんが住んでいます。お父さんのお母さんです。あるときこのおばあさんがやってきたので、ルルちゃんはおばあさんにもウララちゃんを見せました。
ルルちゃんがいつもウララちゃんの本を持ち歩いているのを見て、おばあさんが言いました。
「それを入れるリュックでもあるといいんじゃない?」
そこで、おばあさんがリュックを作ってくれることになりました。しばらくしてリュックが届きました。
ベージュのリュックで赤いふたがついていました! ルルちゃんにぴったりの大きさです。ウララちゃんの本もきちんと入りました。リュックには大きなポケットがあって、これはゴエモンが入るのにちょうどいいサイズでした。
ゴエモンは最初はいやがりましたが、そのうち、ポケットの中が意外といごこちがよいことに気づき、ときおりその中に入ってルルちゃんに運んでもらって移動しました。
ウララちゃんの本の表紙には、なにやら文字が書いてありました。ルルちゃんは――魔物はみなそうですが――文字が読めません。そこで、なんて書いてあるのかカイにたずねました。
「大きいほうの文字には、ドラマティックウララって書いてあるよ」
「ウララは名前だよね? ドラマティックってなに?」
「さあ? ともかくこれは商品め」
「とってもかわいいすてきなウララちゃんってことよ」
横からナミが口を出しました。ルルちゃんは今度は小さいほうの文字を差しました。
「こっちは?」
「これは作者め」
カイが答えようとしましたがこちらもナミにさえぎられました。
「ウララちゃんのお父さんの名前よ」
「へー」
なぜお父さんの名前が書いてるのか、ルルちゃんにはよくわかりませんでした。けれどもそれはさておき、ナミにたずねました。
「なんて名前なの?」
「フジタヨシマサさんよ」
そこで次の日、ルルちゃんはウララちゃんにお父さんのことをたずねてみることにしました。
「ウララちゃんのお父さんってどんな人なの?」
「宇宙飛行士よ。いつも宇宙に行ってて、あまり家には帰ってこないの。今は月にいるの」
「そうなんだ!」
ルルちゃんはおどろきました。月に行けるのはうらやましいことです。月にはウサギがいます。おもちをついています。ウララちゃんのお父さんはウサギがついたおもちを食べたことがあるでしょうか。
「お母さんは?」
ルルちゃんがたずねると、ウララちゃんは答えました。
「探検家なの。お母さんもあまり家にいないのよ」
「じゃあ……さみしくない?」
「そうね……ちょっとはさみしいわ。でもね、おばあさんがいるから。二人で仲良く暮らしているの」
「そうなんだ」
すごくさみしくなったら、ルルに会いにくればいいよ、とルルちゃんは思いました。でもそれは言えませんでした。
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