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「これ、なんなの?」
ようやく、ルルちゃんがカイにたずねました。カイが前に言ったのと同じ言葉をくりかえしました。
「魔法の本だよ」
「あの……インパラとかと同じような?」
「そうだよ」
ということは、この女の子にふれることはできないわけです。けれどもインパラと同じなら、どこか遠いところに本体があるのでしょう。おそらく、外国かどこかに。
「なにやってるのー?」
声がして、それと同時にはしごを上がる音がしました。すぐに、ロフトの出入り口にナミの顔が見えました。
「あっ! ウララちゃんだ!」
ナミが言いました。そして、二人の近くによってきました。
「これ、わたしのなんだよ!」
「ナミのなの?」
ルルちゃんがたずねます。
「そう。わたしのお友だち」
「でも、最近は放置してたじゃん」
これはカイです。
「まあ、わたしも大人になったというか……」
ナミはウララちゃんを見て、笑いかけました。
「ナミだよ。覚えてる?」
「もちろんよ! 久しぶりね! 会えてうれしいわ!」
「すごーい! ちゃんと覚えてるんだ!」
ナミはよろこび、そしてルルちゃんのほうを見ました。
「使い方、教えてもらった?」
「ううん。使い方って?」
「ウララちゃんと遊ぶ方法」
ルルちゃんはドキドキしてきました。ウララちゃんと遊べるのです。ナミはウララちゃんが立っているページに視線を落としました。白いページですが、すみの方に小さなイラストがあります。一つはワンピースのイラスト。
「ここでお着替えするんだよ」
そう言ってナミは、ワンピースのイラストに指を当てました。たちまち、ウララちゃんの背後に、クローゼットと鏡台があらわれました! ナミが今度は、クローゼットにふれます。するとクローゼットの前にずらりと洋服がならびました!
「この中から好きなものを着せることができるの」
ナミはそう言い、指を右から左へと動かしました。次々と新しい服が出てきます。魔法のクローゼットでした。
「ウララちゃんに選ばせることもできるよ」
そうしてナミはウララちゃんに言いました。
「ウララちゃん、お着替えして」
ウララちゃんはクローゼットへ向かいました。少しなやんでいるようです。でもすぐに、シンプルな七分袖のシャツと、ジーンズを選びました。くつもあります。底がぺたんこの、これもまたシンプルなものをウララちゃんは選びました。
ウララちゃんのからだを、煙のようなものが包みます。そして次の瞬間には、ウララちゃんは自分が選んだ服に着替えていました。ルルちゃんは目を丸くします。
ナミがさらに言いました。
「メイクと髪の毛もね」
今度は鏡台へと向かいました。いすに腰かけ、ここでも少しなやんでいるようでした。けれどもウララちゃんが顔に手をかざすと、顔の様子が少し変わりました。目鼻立ちや目の色は変わっていません。けれどもメイクが変わったのです。さっきよりもはっきりした、少しボーイッシュなものになりました。
続けて、手を頭にかざしました。こちらは色と長さも変わりました! 金から茶色になり、長さも短く真っすぐになりました。
少し、男の子ようになったウララちゃんが、ナミを見て笑いました。
「ね、楽しいでしょ?」
ナミが言い、ルルちゃんはこくこくとうなずきました。カイが少しあきれたように言いました。
「インパラやライオンのほうが楽しいよ」
「インパラやライオンも楽しいけど、そちらもすてきだったけど、ウララちゃんもとっても――」
すてき、とルルちゃんは言おうとしたのです。でもなぜか言えませんでした。なぜか、急に恥ずかしくなってきたのです。
「他にもあるのよ! ちょっと待ってね」
ナミはそう言って、ケースの中を探しました。そして一つの小さな紙の箱を見つけました。
「あった! この中にね、ウララちゃんの着替えが入ってるの」
箱を開けると、そこには小さなかぎがたくさん入っていました。かぎは、金色だったり銀色だったり銅の色だったりします。またそれぞれ形が違うのです。ナミは、それを一つ一つ見ていきました。
「これは、アイドルになれるんだよ」
ナミはかぎの一つを取り出しました。それはピンク色のかぎで、うすい青の光る石がついていました。ナミはかぎを本の側面に差し込みます。
と、本全体がもやのようなものにおおわれました。けれどもそれはすぐに消え、後にはおどろきの光景が広がっていました! 本よりもさらに広いスペースに、立体映像があらわれ、その真ん中にウララちゃんが立っていました。
ウララちゃんはまた着替えていました。今度はきらきらとしてかわいらしい服でした。フリルやレースやリボンがふんだんに使われていました。スカートは短く、ウララちゃんの細く長い足をとびきりきれいに見せていました。
ウララちゃんが立っているところは、舞台のようでした。照明が動きます。音楽が鳴ります。ウララちゃんは歌いました。踊りながら歌ったのです。ウララちゃんは身軽で、その動きは羽のようで、音楽にとてもよくあっていて、見ているだけでとても楽しい気持ちになりました。
「すてき! すてき!」
ルルちゃんはさけびました。ナミはルルちゃんに言いました。
「ウララちゃんは私のだったけど、ルルちゃんにあげるよ」
「ウララちゃんを!? いいの!?」
ルルちゃんはびっくりしてナミを見上げました。
「いいの。とても気に入ってるみたいだから」
「うん。ルルはウララちゃんのことがす――」
好き、と言おうとしたのです。でもやっぱり恥ずかしくなって、なにも言えませんでした。
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