第三話 ルルちゃんの初恋
1
しとしと雨の降る日でした。カイはたいくつしていました。ルルちゃんもたいくつしていました。一人と一匹で、カイの部屋にいて、なにかすることはないかと考えていました。
まんがを読む気にもゲームをする気にもなれません。雨は激しくありませんが、止む気配もありません。ルルちゃんはだんだん眠くなってきました。
しだいにうつらうつらしてきました。すると突然、カイが声をあげました。
「そうだ!」
ルルちゃんははっとして目を覚ましました。
「どうしたの? 急に」
ルルちゃんがたずねると、カイは言いました。
「ロフトに行こう」
カイとルルちゃんが住んでいる家にはロフトがあります。ロフトにははしごで上りますが、いつもは二階のホールのフックにかけてあります。ですので、ふだんはあまりロフトの行くことがありません。
ルルちゃんは飛べるので、たまにロフトに行きました。細長く、小さな部屋です。天井が低いのですが、ルルちゃんは小さいのであまり気になりません。
大きな窓が、一つだけありました。窓にはいつもカーテンがかかっています。そのため、ロフトは薄暗いのです。けれどもルルちゃんはロフトが好きでした。妙に落ち着くところがあります。
一匹だけになれるというのがよいのかもしれません。前にも書きましたが、魔物は個人主義的なところがあるのです。ルルちゃんはみんなといるのが好きでしたが、それでも時には、ロフトでぽつんとぼんやりするのも悪くないなと思いました。
カーテンのすき間から窓の外をのぞくと、他の家がたくさん見えます。そしてずっと向こうにはきらりと光る青いものが見えました。海です。
ロフトは物置として使われていました。段ボールが積み上げられています。衣装ケースもいくつかあります。それから大きなふくろに入ったふとんなども。
カイとルルちゃんは部屋を出て、ホールへ向かいました。まずは、はしごをロフトの入り口に設置しなければなりません。はしごは重いのです。カイが下を持って、ルルちゃんが上を持って、一人と一匹で力を合わせて、なんとかはしごをかけました。
カイがはしごを上ります。ルルちゃんはすでにロフトで待っていました。カイが言いました。
「さあ、なにかおもしろいものがないか、探してみよう」
これはカイがたまにやる遊びでした。ロフトの、物置の探索です。面白いものが見つかることがあります。昔自分が使っていたおもちゃや、自分が描いた絵などが出てくるのです。カイはこういったものを見るのが好きでした。そして、昔に比べて、自分はなんと大人になったことだろう、と思うのが好きでした。
これは特に、今日のようなしとしと雨が降る、ぼんやりと暗い日にやるとちょうどよいのです。
ロフトは薄暗いので、まずはカーテンを開けます。続けてカイは、ケースの一つを持ってきて開けました。中には様々なものが入っています。本がいくつかありました。おもちゃもあります。カイはある本に目を止めました。
「ウララちゃんだ」
カイはそう言って、本を引っ張り出しました。濃い、ダークグリーンの表紙の、少し大きめの本です。厚さはあまりありません。けれども表紙の作りはしっかりとしています。文字がいくつか、それとつた模様が周囲を取り巻いているだけの表紙は、どこか古風でおしゃれです。
「ウララちゃんって、なに?」
ルルちゃんがたずねました。カイは答えます。
「魔法の本だよ」
そう言ってカイはまたなにかを探しました。そして見つけました。黒いコードです。それを一端は本につなぎ、もう一端はコンセントにつなぎました。(ロフトにはちゃんとコンセントがありました)
本の表紙にある、小さな赤いランプが光ります。充電中、ならぬ、充魔中のしるしです。その状態のまま、カイは本を開きました。
「これがウララちゃんだよ」
カイはそう言って、ルルちゃんに本を見せました。そこには女の子が一人、立っていました。――とてもかわいい女の子でした!
年のころは、ナミよりも少し上に見えました。白いシンプルなワンピースを着ていました。髪は金色でやわらかそうなウエーブがかかっており、肩から背中へとたれていました。瞳の色は濃い、ダークグリーンです。表紙の色と同じです。
ルルちゃんはびっくりして女の子を見つめました。こんなかわいい女の子、今まで見たことがありませんでした。女の子もルルちゃんを見つめて、そしてほほえんで言いました。
「はじめまして。わたしはウララよ。あなたの名前はなんていうの?」
ルルちゃんはますますびっくりしてしまいました。女の子――ウララちゃんです――の声はその姿にふさわしく、とても可憐で愛らしいものでした。ルルちゃんはびっくりしたまま、短く答えました。
「ルル」
「ルルちゃんね。いい名前ね」
ルルちゃんは困ってしまいました。どうすればよいのかわからなくなってしまったのです! ウララちゃんはほほえんでいます。ルルちゃんもほほえみを返しました。でも上手く笑えているのか、自分ではよくわかりませんでした。
ウララちゃんは目を転じ、カイを見つけました。
「あら、カイがいるじゃない。お久しぶりね」
「へえ、データが残ってるんだ」
カイもおどろいているようでした。けれどもルルちゃんはそんなカイのほうを見ず、ひたすらウララちゃんを見つめていました。
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