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 ふつうの手紙サイズではなく、大きな封筒でした。ルルちゃんはそれをつかむと、居間に戻ってゴエモンに声をかけました。


「ルル、これからお使いに行ってくる!」


 大きな、使命感に満ちた声でした。ゴエモンは目を覚まし、なにがあったのかよくわからない顔をしてルルちゃんを見て、寝ぼけた声で言いました。


「お、おお。いってらっしゃい」

「いってきます!」


 そう言って、ルルちゃんは家を出ました。


 ルルちゃんは飛ぶことができます。しかも、飛ぶと早いのです。歩くよりも、走るよりも、早く移動することができます。お母さんが働いているところまで少し遠いので、ルルちゃんは飛ぶことにしました。


 前は電車で行ったのです。ですから、ルルちゃんはまず、駅をめざしました。駅についたらそこから線路をたどって移動です。ルルちゃんは封筒をしっかと抱えたまま、線路の上を飛んでいきます。


 飛ぶのにちょうどいい日です。空は青く、風は心地よく、暑くも寒くもありません。ルルちゃんはぐんぐん飛んでいきます。意気ようようです。下を見れば、建物が、緑が、次々と後ろに去っていきます。


 右手には海が見えます。前からはとんびが飛んできました。ルルちゃんは少しよけました。羽を広げたとんびは、想像以上に大きいのです。ルルちゃんはちょっぴりドキドキしました。とんびはちらりとルルちゃんを見ました。わずかに、会釈したように見えました。なのでルルちゃんも会釈を返しました。


 しばらく飛んでいるうちに、大きな駅が見えてきました。お母さんの職場のある駅です。駅の周りにも大きな建物がたくさんあります。都会なのです。


 駅の上まで来て、ここでルルちゃんははたと迷いました。駅には二つの出口があります。ルルちゃんの右手にある出口と、左手にある出口です。いったいどっちに、お母さんがいるビルがあるのでしょう。


 ルルちゃんは不安になってきました。どちらでしょう。前に来たとき、自分がどちらの出口を使ったのか、ルルちゃんには思い出せません。でも、このままここでじっとしているわけにもいきません。ルルちゃんは心を決めました。そして右を向くと、そちらに向かって飛び始めました。


 けれどもいくらも行かないうちに、どうもおかしいぞということに気づきました。街の様子が変です。お母さんのいるビルはとても大きくて立派でした。周りの建物も立派でした。街全体が、大きくて立派でピカピカしていました。けれども進めば進むほど、そうではなくなっていきます。


 大きくも立派でもなく、ピカピカもしていません。小さくあまりぱっとせず、ごみごみとしています。ルルちゃんはますます不安になっていきます。封筒が、持ちにくくなってきたな、と思いました。それもそのはずです。ルルちゃんが不安になるにつれて、からだが小さくなっていったのです!


 封筒がどんどん持ちにくくなります。そしてついに――落としてしまいました! ルルちゃんははっとして、飛ぶのをやめました。封筒が、地面に落下していきます。それをぼんやりとルルちゃんはながめました。


 けれどもぼんやりとしている場合ではありません。ルルちゃんは封筒を追いかけて、大急ぎで地面へと下りました。せまい道の一つにルルちゃんは下り立ちました。封筒はどこでしょう?


 せまくて、あまりきれいではない道でした。背が低く、古くて小さな建物があたりにきゅうきゅうと並んでいます。昼だというのに、暗い印象があります。どこからか子どもの泣き声が聞こえます。ルルちゃんも泣きたい気持ちで辺りを見まわしました。


 一人の女性が見えました。黒い服を着た、若い女の人です。その人がルルちゃんの封筒を持っていました! ルルちゃんは大急ぎでその人のところへ飛んでいきました。


「それ、ルルの!」


 大きな声でルルちゃんが言いました。女の人がルルちゃんを見つめました。整った、美しい顔立ちの人でした。女の人は二階建ての、アパートらしき建物の、その外階段のそばに立っていました。


「あなたのなの? ちょうど、今さっきここで拾ったの」


 女の人はそう言って、ルルちゃんに封筒をわたしました。けれどもルルちゃんは小さくなっていたのです! 封筒を、うまく持つことができません。


「あのね、ちっちゃくなっちゃって、ほんとはこんなにちっちゃくないんだけど、でもちっちゃくなっちゃったの。もう少ししたら戻ると思うんだけどね、そうすれば封筒も持てるし、少しお休みすれば……」


 ルルちゃんの説明はちっとも上手くありませんでした。でも女の人は優しそうにほほえんで、言いました。


「じゃあ、少し休んでいく?」


 ルルちゃんと女の人は、ならんで外階段に腰をかけました。封筒を拾ったのがいい人で、ルルちゃんはほっとしました。


 座っているうちに、ルルちゃんの心は落ち着いてきました。車が一台、乱暴に通り過ぎていきます。子どもの泣き声はもう聞こえませんでした。辺りには誰もいません。でも誰かがしゃべっている声がうっすらと聞こえてきました。それは怒るように大きくなって、けれどもぴたりとやみました。


「あなたは、魔物ね」


 女の人が言いました。ルルちゃんはうなずきました。


「そう。ルルっていうの」

「わたしにも魔物がいたわ」

「かわいい子だった?」

「もちろん。とってもかわいかったわよ」


 女の人にはもちろん、今はもう魔物はいません。大人だからです。女の人は、地面を見て、ぽつりと言いました。


「幸せだったな、子どものころ」

「今はそうじゃないの?」


 ルルちゃんはたずねました。女の人は笑いました。少しさびしそうな笑い方でした。


「そう――どうかな。わかんないな」

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