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 カイもときどきお話をしてくれました。カイが、持っている本を読んでくれることもありました(あの怖い本は本だなの奥にかくしてもらいました)。


 ところでこの世界が魔法の世界だと書きましたよね。なので魔法のお話をしましょう。ルルちゃんたちのような不思議な生き物は出てきましたが、魔法の要素があんまりないんじゃないかと、これを読んでいる人たちは思っているかもしれませんし。


 カイは魔法の本を持っていました! それは不思議な本でした。ぱっと見は、ふつうの本のように見えます。表紙がいくらかしっかりしていてりっぱです。でもそれをのぞけばふつうの本です。


 けれども開くとふつうではないのでした! 開くと、そこに立体的な映像があらわれます。これは魔法の力によるものです。ときおり、コンセントにつないで、魔法の力をもらわなければならない、という本でした。


 ルルちゃんの目の前で、カイは本を開きました。ルルちゃんはびっくりしてその映像を見ました。そこにあるのは草原です。それから低い木。変わった生物もいます。


 シカに似ていますが、シカではありません。らせんを描き、曲がった、不思議なつのがついていました。その生き物は、首をさげて草を食べていました。


「これはなに?」


 ルルちゃんがききました。カイは答えます。


「インパラだよ」


 インパラはびくりとして首を起こします。大きな耳がぴくぴくと動きます。なにか、物音を聞いているようです。そしてぴょんととびはねるとどこかへ行ってしまいました。映像からは消えてしまいました。


 ルルちゃんはびっくりしてインパラがいなくなった草原を見つめました。


「そのうち帰ってくるよ」


 カイが言いました。ルルちゃんは手をのばして、木にさわろうとしました。けれどもさわることができません。ルルちゃんはますますびっくりして言いました。


「どうしてさわれないの!?」

「これは魔法でできてるからだよ」

「じゃあ、実際にはないものなの? あのインパラも?」

「いや、いるよ。この国にはいないけど――動物園に行ったらいるかな――外国にはいるよ」

「へえ……」


 わかったような、わからないような気持ちで、ルルちゃんはやっぱり草原を見つめました。


「他にもいろんな動物がいるよ」


 そう言って、カイがページをめくりました。次に出てきたのは水辺です。そこには大きな鼻の長い生き物がいます。「ゾウだよ」とカイは言いました。大人のゾウと子どものゾウが、ならんで水を飲んでいます。


 次のページはじゃれあうライオンのこどもたちでした。別のページにはたてがみのりっぱな大人のライオンもいました。それからハゲワシにヌーの群れ。キリンもいますし、カバのあくびも見ることができました。


 ルルちゃんはとても感動して、魔法の力はすごいものだと思いましたし、また、こんな生き物たちがほんとにいるなんて、この世界はルルの知らないことばかりでとほうもない、と思いました。(なお、魔法の本は、この後のお話にも出てきます。おぼえていてくださいね)


 ルルちゃんとゴエモンとキレイの話にもどりましょう。あるとき三匹は魔界について話していました。魔界に帰ると、どうなるか、という問題です。そのことに対して、キレイは、二匹が知らない話を知っていました。


「聞いた話によるとね」と、キレイは言いました。「魔界に戻ると、ほとんど間もなくぼくらはふたたびこの世界にやってくるみたい。また誰かの相棒としてね」


「また子守りにかりだされるのか!」ゴエモンは憤然として言いました。「一体どういうことじゃ。これはなにかの呪いか?」


「あくまで一つの説だからね。本当かどうかわからないよ。また違う説もある。それによると、ぼくらはやっぱりこの世界にやってくるんだけど、でももう魔物としての姿ではなく、魔法の力そのもの、としてやってくるんだって」

「魔法の力そのもの、って?」


 ルルちゃんがたずねました。キレイは首をかしげました。


「なんなんだろう。ぼくにもよくわからないや。こう……コンセントからやってくるみたいなものじゃない?」


 ルルちゃんは想像しました。自分のからだが、コンセントの穴からにゅっと出てくる姿を。それはあまりかっこうがよいとは言えませんでした。




――――




 ある日のことです。五月の晴れた気持ちのよい昼下がりでした。お父さんもお母さんも仕事にいっており、カイもナミも学校で、家にはルルちゃんとゴエモンだけです。二匹は居間のソファに座ってうとうとしていました。


 リーンと電話が鳴りました。ルルちゃんはびっくりして飛び起きて、電話に出ました。受話器から聞こえてきたのはお母さんの声です。


「まだ、カイもナミも帰ってないの?」


 お母さんは言いました。ルルちゃんは家には自分とゴエモンしかいないと言いました。お母さんの声がします。


「困ったわ。忘れ物をしてしまってね。茶色の封筒なんだけど、たぶん、玄関のくつばこの上にあると思うの。それを誰かに持ってきてほしかったんだけど……」

「ルルが行く!」


 ルルちゃんは力をこめて大きな声で言いました。「ルルが持ってく!」


「でも、それは……」

「大丈夫! お母さんが働いているところ、知ってるもん!」


 これは本当でした。前に、お母さんの職場があるビルの前をカイやナミたちと通ったことがあるのです。


「でも……」


 お母さんの心配そうな声がします。ルルちゃんははげますように言いました。


「大丈夫だよ! すぐ行くね!」

「あ、ちょっとルルちゃ」


 お母さんはなにか言いかけましたが、かまわずルルちゃんは電話を切りました。そして、やる気に満ちた気持ちで玄関に向かいました。なるほどたしかに、くつばこの上にそれらしき封筒がありました。

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