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 キレイが知っているお話はユメに教えてもらったものがほとんどでしたが、ときに、自分がつくったお話もしました。ルルちゃんとゴエモンを前に、キレイは自分でつくったお話をひろうしました。


「むかしむかしあるところに」キレイは語りました。「一つの国がありました。その国に住む人はみな欲張りでした。なので、いつもいさかいがたえませんでした」

「いやなことだね」


 ルルちゃんが言いました。キレイが続けます。


「そしてあるとき、山から一匹の怪物がやってきました。怪物は、国の人びとを全員、食べてしまいました」

「食べられたの!?」

「そう。一人残らず」

「それで……どうなったの?」


 ルルちゃんはドキドキしながらききました。キレイはさらりと答えました。


「どうもならなかったよ。この話はこれでおしまい」


 ルルちゃんはめんくらって、なんと言っていいのかわからなくなりました。その代わりかどうかはわかりませんが、横でゴエモンが言いました。


「この話の教訓はこうじゃ。欲張りは罰としてひどい目にあう」


 キレイはおどろいたように目を開き、そしておだやかに言いました。


「この話には教訓なんてないよ」

「いや、あるんじゃ。すべての話には教訓がある」


 ルルちゃんは少し不安になっていました。何日か前のことです。おやつにアンパンを食べることになりました。一つのアンパンをカイと分けるのです。お父さんもお母さんも仕事でおらず、カイは二階の自分の部屋にいて、台所で一匹、ルルちゃんがアンパンを分けました。


 注意深く、ていねいに、半分にしたつもりです。けれどもアンパンは、大きいものと小さいものができてしまいました! ルルちゃんは困りました。ルルちゃんはもちろん、大きいほうがほしいのです。でも、カイも大きいのがほしいと言ったら、どうしましょう。


 ルルちゃんはアンパンをお皿にのせて、二階へ運びました。おやつだよ、とカイにさしだします。カイはまんがを読んでいて、ありがとうと言うと、ほとんどお皿を見ずに、小さいほうのアンパンを取りました。


 大きいほうのアンパンを持って、ルルちゃんは部屋のすみに行き、そこで座って食べました。カイはちゃんとアンパンを見たでしょうか。大きさの違いに気づいたでしょうか。気づかなかったかもしれません。


 そうなると、ルルちゃんが一言、そっちは小さいアンパンだよ、と言うべきだったでしょうか。なにも言わなかったルルちゃんは欲張りでしょうか。けれども――ルルちゃんがほんとに欲張りなら、大きいほうのアンパンをいくらかこっそり食べて、二つの大きさを同じにしたはずです。でもルルちゃんはそうしませんでした!


 ルルちゃんは考えながら食べ続け、アンパンを全部おなかにおさめました。


 ゴエモンはルルちゃんにお話というものをしてくれません。ゴエモンが知っているお話があまりないのかもしれません。けれどもゴエモンも、たまには優しい気持ちになることがあるのです。そういうときは、ルルちゃんのためになにかお話でもしようかと思いました。


 その日はめずらしく、ゴエモンが優しい気持ちになっていました。ゴエモンがお話をしてくれると言うので、ルルちゃんはよろこび、ゴエモンのそばに座りました。カイやナミはまだ学校から帰っておらず、家には誰もいません。ゴエモンがまず、ルルちゃんにたずねました。


「どんな話がいいんじゃ?」

「えっとね、おいしい食べ物が出てくる話!」


 ルルちゃんは食べることが好きです。ゴエモンは考えました。


「そうじゃな……むかしむかしあるところに……大きな目玉焼きがあった」

「すてき!」

「カリカリのベーコンもあった」

「ルルも、ベーコンエッグ大好き!」

「それで……人間もおった」

「その人間がベーコンエッグを食べるの?」


 ゴエモンはしだいにいらいらしてきました。


「どうしてわしが一言なにかを言うたびに口をはさむのじゃ。ちょっとはだまっておれ」

「うん、わかった」


 そうしてルルちゃんは大人しくなりました。


 ゴエモンはふたたび考えました。


「それで……人間は……人間はベーコンエッグを食べず……食べずに……、そう、その上で暮らしておった。人間はとても小さかったんじゃ。ベーコンエッグがとても大きかったのかもしれぬ」


 これはおもしろくなりそうでした。ルルちゃんは、ベーコンエッグの上で暮らす人間を思い浮かべます。ところがここで、はたと、気になることが出てきました。


 ルルちゃんは、とろりとした黄身のベーコンエッグが好きです。黄身を、白身やベーコンにつけて食べるのです。でももし人間たちが暮らすベーコンエッグがとろりとした黄身だったらどうでしょう。うっかり黄身がやぶれたら、めんどくさいことになってしまうのではないでしょうか。


 その辺りを、ルルちゃんは知りたくなりました。でもなにか言ったらゴエモンにおこられそうです。ルルちゃんはがまんして、だまっていました。


 ゴエモンはゴエモンで、また別のことを考えていました。おなかが空いてきたのです。今日はどうしたことか食欲があまりなくて(からだの具合がどこか悪かったのかもしれません。そのせいで、ルルちゃんに優しくしようと思ったのかもしれません)、お昼ごはんを少し残してしまったのです。


 けれどもここにきて急に、おなかが空いてきたのです。ゴエモンはお昼に残した煮干しのことを考えました。それをとても食べたくなりました。ゴエモンは煮干しに気を取られながら続けました。


「……人間は……そこで暮らして、そうして……。あるときみんな死んでしまった」

「どうして!?」


 急な展開にびっくりして、ルルちゃんはおもわず声を出してしまいました。ゴエモンはすっくと立ちあがりながら言いました。


「寿命だったんじゃ」


 そうしてゴエモンは煮干しを食べに一階へとおりていきました。残されたルルちゃんは少しの間そこに座って、突然の悲劇におそわれた人間たちに対して、心を痛めました。

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