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部屋の扉をノックする音がしました。返事をすると、お父さんとお母さんが入ってきました。カイの相棒がどんな魔物なのか、早く見たかったのです。
「この子がぼくの魔物だよ」
そう言ってカイは二人に手のひらの魔物を見せました。カイの手のひらの上で魔物はちょこんと座っていました。カイは言い足しました。
「こんなに小さくはなかったんだよ。でも縮んじゃって……」
「お休みすれば元に戻るよ」
魔物がそう言いました。声はまだ小さかったのですが、けれども前よりいくぶん力がありました。
お父さんは魔物をまじまじと見て、感心したように言いました。
「これは珍しい魔物だね」
お母さんも言いました。
「とてもかわいいわ」
お母さんは続けて、カイに言いました。
「名前をつけてあげなさい」
これは子どもたちが、相棒になった魔物のために、まず最初にやることでした。カイは迷いました。名前はいくつか考えてあったのです。でもどれも、ドラゴンのために考えた名前で、いささか仰々しくもったいぶっていて、この白くて丸い魔物には似合わないような気がしました。
カイは飼っていたウサギのことを思い出しました。ウサギの名前はルルと言いました。
「ルルにするよ」
カイがそう宣言し、こうしてこの魔物は、カイの相棒となったのです。
――――
ここでカイの家族について説明しておきましょう。お父さんとお母さん、そしてお姉さんの四人家族です。お父さんは星の観察の仕事をしており、お母さんは子どもたちのために本を作るのが仕事でした。お姉さんの名前はナミといって、カイと同じく、ごくふつうの女の子です。
お父さんは小柄で太っており、物静かで少し心配性でした。お母さんは背が高くやせており、明るく前向きでした。つまり二人には似たところがありませんでしたが、それでも仲良くやっていました。
ナミは14歳で、カイより二つ年上です。これを読んで、あれと思った人もいるでしょう。ナミも子どもだから、相棒の魔物がいるのではないかと。そう、もちろん魔物がいました。ですので正確には、四人と一匹(もう一匹増えて二匹となりましたが)の家族でした。
ナミの魔物は白くてなめらかな毛に覆われた、小さな、手のひらサイズの生き物でした。鼻はとがり、丸い耳がついており、長いひげとしっぽがありました。手っ取り早くいうと、ネズミによく似ていました。けれどもネズミではありません。魔物です。
カイの新しい相棒となった魔物は――この子のことをルルちゃんと呼ぶことにしましょう――次から次へとこれら家族の人たちに紹介されました。そうして、お父さんとお母さんはお仕事に、カイとナミは学校へと出かけていきました。ルルちゃんとネズミに似た魔物――名前を書くのを忘れていました! この魔物はゴエモンといいます――はおるすばんとなりました。
魔物を学校へつれていくことは禁止されています。なぜかというと教室がきゅうくつになってしまうからです。想像してみましょう。子どもたちが一人につき一匹ずつ魔物を連れている姿を。ルルちゃんやゴエモンのように小さければいいのですが、中には小山のように大きな魔物もいます。魔物にそれぞれ、机といすが必要になるかもしれません。そうなると、教室が二ついりますね。ですから、学校には魔物をつれていけないのです。
お母さんは、冷蔵庫に前の夜の夕飯の残りがあること、そしてレンジの使い方を教えてくれました。これでルルちゃんもお昼ごはんが食べられます。ルルちゃんはたちまちレンジの使い方を覚えました。ほんのついさっき、この世に現れたことを考えると、これは大したことです。
ゴエモンはレンジを使いません。ゴエモンはいつも煮干しと少しの野菜を食べるのです。ゴエモンはこれで満足しておりました。
ルルちゃんはきちんとレンジを使って、焼いたお肉と白いご飯とかぼちゃの煮物を食べました。朝ごはんは何を食べたんだろうと思っている人もいるかもしれません。朝ごはんは焼いたトーストにイチゴジャムをぬったものを食べました。これはお母さんが用意してくれました。でも明日からは(朝ごはんだけですが)ルルちゃんが自分で準備するのです。この家ではそういうやり方になっていました。
時間が過ぎ、夕方になり、そして夜になりました。みんなで晩ごはんです。ルルちゃんは背が低いので、この家にあるいすはどれも大きすぎました。けれどもお父さんがクッションを持ってきて、高さを調節してくれました。
「ルルちゃん用のいすを買わなくちゃね」と、お母さんが言いました。「それから、ルルちゃんのねどこも。ちょうどいいサイズのかごがあるといいんだけど」
晩ごはんは、今度は焼いたお肉ではなくお魚でした。おみそしるにおとうふもありました。おとうふは冷ややっこです。ルルちゃんは、おとうふはとてもおいしいと思いました。なので、そのことをみんなに言いました。
「他にもね」ルルちゃんは続けて言いました。「おやつに食べた白いパンもおいしかったの」
それはやわらかな白いパンで、中に甘いクリームが入っていました。ルルちゃんは少し考えて言いました。
「ルルは、白くてやわらかいものが好きみたい」
「ルルちゃんも白くてやわらかいよね!」
お姉さんのナミが笑って言いました。ルルちゃんははっとして、言い返しました。
「ルルは食べ物じゃないよ!」
食べられては大変なので、この辺ははっきりしておかなければなりません。ナミはますます笑い、今度はゴエモンに目を向けました。
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