ぼくのまもの
原ねずみ
第一話 ルルちゃんがやってきた
1
12歳というのは特別な年齢です。特に、この世界においてはそうでした。この世界というのは今からお話する物語の舞台となる世界のことです。わたしたちの住んでいる世界とよく似ていて、けれども少し違う世界です。
風景はとてもよく似ています。わたしたちがよく知ってるような家に住み、よく知っているような車や電車で移動し、よく知っているような食べ物を食べました。よく知っているような生き物が繁栄していて、それは「人間」と呼ばれていました。けれどもそこには――魔法があったのです!
多くのものは魔法の力によって動いていました。詳しく説明すると、コンセントから電気ではなくて魔法の力を得ることができたのです。人々はその魔法の力を利用していましたし、大人たちは自ら様々な魔法を使うことができました。(子どもは別です。このことについては後でお話しましょう) さて、これでこの世界がどういうものかだいたいわかりましたね。
ここに一人の男の子がいました。12歳です。ちょうど今日、12歳になったばかりでした。12歳というのは特別な年齢なのです。12歳になった朝、魔界から相棒がやってくるのです。
前にも書いた通り、子どもは魔法を使うことができません。その埋め合わせでしょうかよくわかりませんが、子どもには魔界からやってきた相棒がいました。彼らは「魔物」と呼ばれていました。その姿はいろいろです。「魔物」というほど怖くないものがほとんどです。
男の子は、名前をカイと言いました。ごくふつうの男の子でした。けれども彼は誕生日が4月の初めでした。これはカイにとっては嬉しいことでした。何しろクラスで一番早く、相棒を持つことができるのです。
どんな魔物がやってくるか、カイはとても楽しみにしていました。希望をいえば、ドラゴンがいいな、と思いました。光るうろこに覆われた、空を飛び、火を吹くドラゴンです。そんなに大きくなくてもいいんです(食費が大変でしょうから)。でもかっこいいとよいな、とカイは思っていました。
わくわくした気持ちで眠りにつき、そして12歳の誕生日の朝を迎えました。ベッドから起き上がって、まず、目にしたものは――白い不思議な物体でした。
それは50センチほどの大きさでした。全体的に丸っこくなめらかです。頭には白い小さなつのが二本、ついていました。その下には黒くてかわいらしい瞳がありました。短い手と足もありました。
これが魔物だな、とカイは思いました。ぼくの魔物だ。けれどもこれはなんなんでしょう。こんな生き物、今まで見たことがありません。少なくとも――ドラゴンではありません!
「きみが魔界からやってきた僕の相棒?」
ベッドの上から、カイはたずねました。謎の生き物はこっくりうなずきました。
「そうなの」
「きみは一体――なんなの?」
「魔物だよ」
「そうではなくて……」
なんといえばいいのでしょう。けれども魔物の姿は本当にいろいろなのです。この世界にいる生き物に似た魔物もいます。けれどもそうでないものもいます。カイはまじまじとその魔物を見つめました。
真っ白なからだのせいでしょう、昔飼っていた白いウサギを思い出しました。カイはそのことを目の前の魔物に言いました。
「前にうちに白いウサギがいたんだよ。でもきみはウサギじゃないし……」
「変身できるよ!」
唐突に、魔物は言いました。「ウサギに変身できるの!」
「そうなんだ!」
これにはカイもおどろきました。変身できる魔物など、聞いたことがありません。ひょっとしたら他にもいるのかもしれませんが、カイの周りにはいません。
「ちょっと待ってね」
魔物はそういうと、集中するかのように顔を少ししかめました。姿が徐々に変わっていきます。つのが伸びてきます。なるほどたしかにウサギの長い耳に似てきたかもしれません。けれどもカイは思いました。ウサギって、こんな生き物だっけ?
どうも違うような気がしました。たしかにつのは伸びました。けれどもこれは――つのです。どう見ても耳じゃありません。カイは言いました。
「ウサギじゃないみたい」
魔物はがっかりした顔をしました。つのがどんどん元の長さに戻っていきます。カイはさらに言いました。
「ドラゴンに変身できる?」
ウサギになれなかったところを見ると、ドラゴンになるのも望み薄ですが、カイはそうたずねてみました。魔物は得意そうに、「うん!」と答えました。
今度はつのだけではなく、全身が変わりました。魔物の身体が細くなっていきます。どんどん細く、そして長く。それを見てカイはヘビみたいだと思いました。ドラゴンではないようです。ただヘビとも違って、小さな手と足が生えています。
「お空も飛べるよ」
そう言って、魔物は、細長くなった白い魔物はカイの頭の上をくるくると飛んでみせました。けれどもそれは長くは続きませんでした。飛ぶ速度が次第に遅くなり、ふらふらとし、そしてぽたりとベッドの上に落ちました。
「……ちょっと疲れちゃったみたい」
力のない、小さな声で、魔物は言いました。そして元のふっくらとした姿に戻り、それがどうしたことか、みるみると縮みました。カイはびっくりしました。このまま魔物が縮んで、消えてなくなってしまったらどうしようと思ったからです。カイはあわてて魔物をすくいあげました。
そのときにはすでに、カイの手のひらほどの小ささになっていました! でも小さくなるのはそこで止まりました。カイはほっとし、魔物に言いました。
「ウサギじゃなくても、ドラゴンじゃなくてもいいよ。きみはぼくの魔物だよ」
魔物もほっとしたようにうなずきました。
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