第6話 休日にまで顔を合わせるなんて……
今日は、久々の丸一日の休日。
ゆっくり休もうと考えていただけあって、お昼寝をしたらこんな時間になっていて、お昼ごはんも食べていなかったので、何か食べようと、散歩がてら外に出てきていた。
当然、いつも通りの美少女探しも兼ねている。
散歩しながら、すれ違う女の子達の顔を確認しているけれど、まあ、簡単に見つかったら苦労しないよね~。
「あっ! ひなたちゃんだ!」
「お、こんにちは! 元気だね~?」
てくてく、と小さな女の子が近づいてきて、脚に抱き着いた。
幼稚園児だろうか、そのまま、私を見上げてくる。
これこれ、
なでなで。
おぉ、さらさらだ。
精肉店でお会計をしていた、この子のお母さんらしい女性が慌てて駆け寄ってきた。
「す、すみません!」
「いえいえ~。大丈夫ですよ~」
ちょっと目を離したすきに子供が、なんてよく聞く話。
それだけ安全ってことなんだろうけど。
その場にしゃがみ、女の子と目線の高さを合わせる。
「今日はどうしたの~?」
「今日はね、おかあさんが、ハンバーグつくってくれるの!」
「そっかぁ、良かったね~」
もう一度頭を撫でると、くすぐったそうに笑っていた。
最近は、こういうのに厳しいらしいけど、私は美少女だから、見知らぬ子どもの頭を撫でることも、許されるんだよね。
私は美少女だから!
それにしても、ハンバーグか……私も作ってもらおっかな?
チーズも入れてもらお!
そんなことを考えながら、立ち上がる。
「元気ですね~」
「は、はい。本当に……」
ちょっと呆れたように言う。
私は子育てと縁遠いけど、大変だろう事は分かる。
「お母さんのお手伝いしてあげてね?」
「うん!」
いい返事を返して、女の子はお母さんの足に抱き着いた。
「すみません、ありがとうございました!」
「いえいえ~」
「ほら、お姉ちゃんにばいばいして」
「ひなたちゃん、ばいば~い」
「ばいばい」
将来美少女になるんだよ~。
手を振って別れを告げると、私も美少女探しを再開する。
私が結構ここらへんに出没してるからか、それとも気づかれないのか、あんまり囲まれることは無い。
多少は囲まれ続けるけど、大したことじゃないしね。
オーラが出てないのかな?
こう、むわっ、と?
適当に手を振り返してたりしてると、自然とここにきてしまった。
『
元々はネットだけで細々と事業を展開していて、服ではなく、インテリアなどをメインに手掛けていた小さな会社。
私もちょくちょく利用させてもらっていた。
今着てる服もそうだし。
つい最近、ここに実店舗が出来たってことで、初日に来て、店長と意気投合した。
ちょっと頭がおかしいけど、普通にいい人だった。
「おぉ、らっしゃい!」
でかい声に出迎えられる。
最初は、ただ無言で視線を向けるだったけど、私の着てる服がここの服だったからか、二度見した途端に嬉しそうな顔をしていた。
自分が気に入っているデザインだから、冷やかしで来る客が嫌いらしい。
なんで、開店したのかって話だけど、上の人から任されたらしい。
世知辛い。
「店長さん、また来ちゃった!」
「来てもいいけど何にも変わってねぇぞ?」
そこまでお客さん来てなさそうだもんね。
「新しいの入荷して~」
「まだ移ってきて数日なんだわ」
今日もここの服を着ているからか、にっこにこなんだよね。
どれだけ自分作ったデザインが好きなのか。
まあ、私が鏡見てドヤるのと同じか。
「え、ひなた!?」
「マジじゃん! え、なんで!?」
声がした。
条件反射で、声を掛ける。
「こんにちは~! あ」
女の子に紛れて見覚えのある美少女が!
休日に会うのは珍しいというか、初めてかもしれない。
ここは事務所からそこまで離れていないし、しふぉんちゃんもよく来ているのかもしれない。
すれ違っていれば私が気づくだろうし、今までは、たまたま巡り合わせが悪かったのかな。
「しふぉんちゃんは、お友達と買い物?」
「……っ、うん……」
なるほど。
「写真撮ってもいいですか!?」
「ん~、お店の外ならいいよ~」
「やったぁ! ファンなんです!」
「ありがと~」
店長が嫌いそうな人たちっぽいね、なんとなく。
「……ごめんなさい、ちょっと話があるので」
「あっ、えっと……じゃ、じゃあ、私達外で待ってます!」
女の子二人は、私としふぉんちゃんを交互に見た後、そう言い残し、店外へと、スマホ片手に出ていく。
その背中を眺めていると、しふぉんちゃんが不満そうな目で私を見ていた。
そんな顔も可愛いね。
「……なに?」
「私服かわいいね!」
「は?」
ちょっと機嫌が悪いみたい。
「じゃあ、私の買い物に付き合ってもらおっかな!」
「はぁ!? 何、勝手に……」
しふぉんちゃんの声は尻すぼみになっていく。
視線を追えば、外の二人を気にしている様だった。
「しふぉんちゃんは、何か気に入ったのあった?」
「……別に」
ここ、独特なの多いし、しふぉんちゃんの私服とは系統が違うもんね。
「なら、私とおそろいのにしない? あ、『ヒルメグ』の収録、それ着てこっか?」
「バカなこと言わないで」
「ひどくない?」
そんな強く否定しなくても……無理なのはわかってるけど。
他の番組とかのスポンサーとかになってくれれば、自然と着れるんだけどね。
あ、でもそれだと、自由に感想言ったりできなくなるのかな?
「あ、これは? しふぉんちゃん、猫は好き?」
「……別に嫌いじゃないけど、これは猫とは認めないから」
「にゃあって書いてあるから、猫だよ?」
ちょっと色がピンクで、耳がないこと以外は、動物に見えるし、多分。
「じゃあ、これは? このドーナツ!」
「なんか見覚えある」
覚えててくれたのかな?
嬉しい!
「私とお揃い!」
「嫌だって言ってるでしょ」
わがままな妹みたいでかわいい……お持ち帰りしたい。
反抗期の妹、うん。
歳的にもあってるし、いいね!
「あ、こっちは?」
「これなら、まあ……」
しふぉんちゃんが手に取り、自分の身体にあてがった。
おお、どこかのバンドを応援してる子っぽい。
「まっするめん、だね」
「は、いきなりなに?」
「ん? これだよ? ほら、色の違うところだけ読むと、MUSCLEMENってなってるでしょ?」
基本白で書かれた英文の一部単語がラメ入りの明るいグリーンになってる。
こういうのあるんだよね、私の今着てるのも
それが気に入って買ってるんだけど
「じゃあ、会計してくるね!」
「や、やっぱり、いらないっ!」
私から服を取り返そうとするけど、届かないように反対に手を伸ばす。
「えへへ、おじさんが何でも買ってあげちゃうよ~!」
「アンタのたまに出るキモい言い方何なの……?」
密着していたのに気づいたのか、身を離してしまった。
「んー、親愛の、なにかかなぁ?」
「気持ちわる……」
言葉の棘が飛んでくるけど、かわいいものだよね。
それに、今は気分がいいからね!
「他に何か欲しい? 買ってあげる!」
「いや、アンタ今日どうしたの?」
「今日は、いい日だからね!」
「……なにそれ」
呆れられてしまった。
「じゃ、かっちゃおー! 店長~、これ頂戴!」
「……はいよ」
店長が、しふぉんちゃんを睨むように見た
「ちょっと、私の妹いぢめないで~?」
「あ? 妹だって?」
しふぉんちゃんに隣から抱き着く。
ほら、仲良し姉妹ですよ~?
「ちょ、ちょっと!」
「私に似てかわいいでしょ?」
「そうかぁ?」
じろじろと見られていても、しふぉんちゃんは笑顔を返している。
ふんっ、と店長は鼻で笑った。
「ありがと! はい、しふぉんちゃん」
「……」
「またね、店長!」
「おう。……嬢ちゃん」
「はい?」
軽く頭を下げて出ようとしていたしふぉんちゃんを呼び止めていた。
「ソレ、気に入ったなら、また寄ってくれや。見ての通り、人、全然いねえからよ」
「……はい、機会があれば」
『Menaryyy!』を出ると、しふぉんちゃんと一緒にいた二人が、すぐにこちらに近寄ってきた。
「今なら写真、いいですか!?」
「もちろん! いいよ~」
「じゃあ、ここに立ってもらってぇ……」
私としふぉんちゃんで二人を挟む形にすればいいのね。
ポーズは何も言われないし、ピースでいっか。
自撮り棒も最近は見なくなったなぁ……
「ありがとうございます!」
「これからも応援よろしくね!」
「はいっ!」
さて、そろそろ事務所に向かおっかな。
「じゃあ、私達はこれで」
「私は……ごめんなさい。ちょっと話があるので」
「あぁ、じゃあ、また学校で」
二人は時々こちらを振り返りつつ、去っていった。
それを見送って、しふぉんちゃんに向き直る。
「どこか行きたいところある?」
「……」
あの二人と話しているところを見たからか、少し気まずそう。
「じゃあ、一緒に練習しに行こっか?」
「……」
美少女探しは切り上げて、直行することにした。
しふぉんちゃん以上は、簡単に見つからないだろうし、横顔を眺めていた方がずっと有意義だろうから。
「しふぉんちゃん、お腹空いてない?」
聞いてみても、返答することさえもしたくないみたい。
周りに人がいるから仕方ない。
呼び止められたりすることはあったけど、他に寄り道もしなかったので、案外早く事務所につくことが出来た。
「鍵借りまーす」
「ん? ひなた、また……」
振り返ったプロジューサーは、しふぉんちゃんに少し驚いたみたいだった。
「しふぉんは、ひなたに捕まったのか」
「ゲットしてきました!」
「はぁ……ほどほどにな」
プロジューサーは、パソコンへと視線を戻した。
レッスン室に来たものの、レッスンをするつもりはない。
ここでなら、誰の視線を感じることなく、話すことが出来る。
「あの、さ……」
「ん、どうしたの、しふぉんちゃん」
「っ……ふぅ……」
真正面から私を見つめていたしふぉんちゃんは、顔を逸らし、口を開いた。
「その、悪かったわね、買い物の邪魔しちゃって」
……? あー……
「しふぉんちゃんとデートできたからいいよ!」
「……はぁ!? え、気持ち悪い……」
言いながら、自分の身体を抱いて、後ずさりをしていた。
「ひどくない!?」
「言葉の選び方が気持ち悪い」
「ねえ、しふぉんちゃん? 流石に私もそんなこと言われたら傷ついちゃうよ?」
「あっそ」
多少、リラックスしてるのかな?
私が普通に仲良くしたいっていうのもあるけど、一緒に収録がある以上、いつまでも気まずい空気でいると、共演者だけでなく、多くの関係者に迷惑がかかってしまう。
「って、そうだ。しふぉんちゃん、時間、大丈夫?」
「え……あっ」
スマホを取り出して確認したしふぉんちゃんは、一瞬固まったあと、すぐに荷物を抱えた。
「プロデューサーに言えば送っていってもらえると思うよ?」
「そ、それは」
「アイドルのお世話をするのは、プロデューサーの仕事だから、どんどん頼ってあげた方が喜ぶと思うよ? 仕事大好き人間だから」
私としふぉんちゃんは違う。
しふぉんちゃんは、アイドルとして働いているとはいえ、未成年で、高校生。
真面目過ぎるかもだけど、あまり遅くまで外を出歩くのは危ないしね。
しふぉんちゃんかわいいし。
「またね、しふぉんちゃん」
扉に手をかけたしふぉんちゃんが、私の言葉に動きを止め、こちらに振り返った。
「……アンタは帰らないの?」
「うん、私はここで練習していこっかなって。一緒に変えるって言うのは魅力的なんだけどね」
「……そ」
扉を開けて去っていく。
それを見送りながら、私も時間を確認して、今の時間ってプロデューサー暇だったかな、と今更考えてしまった。
そして、練習の準備をして、いざ始めようとしたところで……
「一緒に帰った方が美少女を眺められる時間が増えたのでは……?」
少し惜しいことをしてしまったかもしれない。
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