第21話 【違う】


 礼装に着替え、まだ太陽の灯りが薄っすらと辺りを照らし始めた街中を歩く。

 普段目を覚ましてもそのまま二度寝と洒落込むシャルロッテからしてみれば、見慣れぬ早朝の街の姿は新鮮に感じるが、


 「幸か不幸か、って奴?」


 炎と悲鳴に包まれていた街は、一夜にして往年の輝きを取り戻していた。

 早い時間帯とあってか街道に人の姿は無く、静寂一辺倒――美しく寝静まった景観を前にして、再び同じ『一日』に閉じ込められる日常が戻ってくるのかと思うだけでも倦怠感に襲われるが、

 

 「おや、これは聖女様ではありませんか。こんな早朝から礼拝ですかな?」


 近所の商店のオヤジが店前を箒で掃きながらシャルロッテに声を掛ける。

 礼拝だと推測されたのは恐らく腰に差した宝器のせいだが、シャルロッテは「えぇ」と小さく頷いてから、


 「まずこの素敵な朝に、そして貴方との邂逅の機会をくださった主に感謝を述べなくてはなりませんからね」

 

 あくまで醜態をさらすのはPoporloの中でのみ。

 シャルロッテは半ば業務的な笑顔を完璧に浮かべては聖職者たる落ち着いた声で言葉を返す。

 この辺はまだ街の西側――即ち小鬼襲来という惨事の起点になった様な場所。恐らく昨日の時点でこの辺は漏れなく火の海に沈んだであろうし、気さくに話しかけてくる商店のオヤジも死んでいたかもしれない――それも概ね自身の怠慢のせいで。


 「だから街に出るのは嫌いなのよ」


 自分の不甲斐なさを思い出しては襲ってくる嫌悪感。

 合わせて吐き出すように小声で呟くと、彼女は路地へと足を踏み入れる。























 ――違う。

























 なぜ、自分はこの路地の奥へと進もうとしているのだろうか?

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それでも僕は君を殺さなければいけない。 ウニの缶詰 @murphyrock

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