第39話 追放サイド:没落への道(その12)

「帝国へ到着し次第、貴様の裁判が行われる。まあおそらく、よくて無期懲役、悪ければ死罪だろう。覚悟しておくがいい」


 俺様は捕まった。捕まってしまった。


 帝国兵に後ろ手に縛られたまま、馬車へと無理やり押し込まれる。


「帝国に着くまで、おとなしくしていることだな」


 馬車の中は、四人乗りで、俺様は帝国兵三人に睨まれている。どうにか逃げられないものかと、心の中の魔王テンガイへと語りかける。――が、返事はない。


 く、くそがああっ! な、何故、この俺様が逮捕されなければならないのだ! これも、それも、あれも! 全部、全部、ジン・カミクラのせいだ!


 怒りと屈辱に震えながら馬車に揺られていると、突然、馬の嘶く声がした。


「なんだ! どうした!?」


 帝国兵が外に出て、馬を引いていた兵のほうへと向かっていく。残りの二人は変わらず俺様を睨んでいた。ち。低ランクの雑魚兵士の分際で……。


「ぎゃあああっ!」


「ぐぼっ!!」


 男の絶叫が唐突に響いてきた。な、なんだ! どうしたんだ!?


 俺様を監視していた残りの二人も、外へと出ていく。その直後――さらなる悲鳴と血しぶきが重なった。


「ひ、ひいいいいっ! な、なんだ! なんなんだよおおおお」


 俺様は錯乱しかけながら、悲鳴を上げる。馬車の出入り口に、赤黒い血がべっとりと付着した手がかけられた。


「だ、だ、誰だああっ!?」


 恐怖と涙と鼻水に塗れながら、ありったけの声で叫ぶ。


「……ラウダ・ゴードン。やっと見つけたぜ」


 その言葉が耳朶に届くと、声の主がぬっと現れた。夕焼けを背負った男の姿は返り血に染まり、ぎらぎらとした瞳をこちらに向ける。


 俺様は――その顔に衝撃を覚えた。


 そいつは、そいつは、忘れもしない――憎き存在。


 ジ、ジ、ジン・カミクラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


「き、きさまああっ! 俺様は、俺様は! おまえの、おまえの、せいでえええええええ!!」


 俺様は後ろ手に縛られたまま、食らいつくほどに吠えた。恐怖よりも怒りが上回り、唾とよだれを撒き散らす。


 が、次の瞬間。俺様はジン・カミクラに足蹴にされ、馬車の壁を突き破って、外へと転げ落ちた。


「ぎゃあああっ! い、いだああいいいいいいいっ!」


 上回っていた怒りは瞬時に消え去り、再び圧倒的な恐怖に包まれた。


「ラウダ・ゴードン。帝国にいた時には、俺を色々かわいがってくれた、らしいな」


 ら、らしい? なんだ、こいつ、ジン・カミクラではないのか? いや、そんなはずはない。どうみてもジン・カミクラだ。


 だ、だが、この気圧されるような雰囲気は、まるで別人。噂や、ライトニングが言っていた通り、本当にSSS級ドラゴンマスターとなったのか……。あのFランク以下だった荷物持ちが、SSSに……。


 俺様の全てが震えていた。指先が、顎が、瞳孔が。這い上がる絶望が「逃げろ」と告げていた。に、逃げなければ! 逃げなければ!


「待て! そこの魔竜人!」


 その時、天空から別の声がした。その声音は雷光ともに舞い降りる。大地を抉る轟音が広がり、そこに金色の少年――ライトニングが立っていた!


「ラ、ライトニング!? お、俺様を助けに来たのか!」


「そんな訳ねーだろうが。そうではないが、オレっちはこいつを放ってはおけないんでね」


 ライトニングは俺様の意見をさらりと否定し、ジン・カミクラに向けて雷槍の切っ先を向けいている。


 ど、どういうことだ? この間、ライトニングは自分の主人はジン・カミクラだと言っていたはず。にもかかわらず、何故、刃を向ける?


 禍々しいジン・カミクラはちらとライトニングを見ると、興味なさげに目を閉じた。


「ライトニング……A級か。雑魚は、去れ」


 ジンの声に、ライトニングが牙を剥いて唸りを上げた。な、なんだ? 一体どうなっているのだ。


「貴様こそ、消えろっ! 紛い物のジン・カミクラアアアアッ!!」


 電気を帯びた咆哮を上げ、ライトニングが槍とともに突っ込んでいく。


 その刹那。



 ライトニングが死んだ。



「え? な、なんだ? なにが……」


 揺れる視界で、俺様はジン・カミクラを見た。心臓が激しく鐘を鳴り響かせる。


 漆黒のオーラを纏ったジン・カミクラはライトニングの――首を左手に持っていた。

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