第38話 決戦前夜
「マスター。大変なのだ。一旦、地上に戻るのだ!」
魔王リベルの中枢であるヘヴンズタワーの屋上で、俺達は宴会の最中だった。デュランダルが突然、青い顔をして叫んだ。続いてムラクモが口を開く。彼女は微かに震えている。
「姉様。これは……グングニルの悲鳴……?」
竜の姉妹には、何かが聞こえているらしい。
「なんだ、どうしたんだ?」
俺は魔鶏のもも焼きに食らいつきながら、その質問を投げた。ちなみに両脇にラルとエルの魔王血族の双子、背中には抱きしめるように魔王白虎がひっついていた。白虎からは微かに桔梗の香りがする。
「グングニルは、氷のSSS級ドラゴンです」
「そうなのだ。一番下の妹なのだ! そのグングニルが苦しんでいる……。誰かに操られている?」
二人の竜姫たちが、夜空を不安げに見上げている。俺はもも焼きを平らげると、立ち上がってデュランダルとムラクモの頭をぽんと撫でた。
「よし。じゃあ助けに行こう。グングニルを」
俺の言葉にデュランダルとムラクモの表情がぱっと明るくなる。
「流石はマイマスターなのだ!」
「主様……ありがとうございます」
しかし、一つ問題があった。リベルの国を守るために魔界へ来たのだが、これでは目的が果たせなくなってしまう。うーむ……。そうだ!
「白虎。頼みがあるんだ」
「まあ! 旦那様が私に!? 初夜に着る下着のリクエストですね?」
ちがう。絶対にちがうよ。……でも、初夜の下着か……。
「マスタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
「主様あああああああああああああああああああああああああああああああ」
い、いかん。呪詛の言葉に絞め殺されそうだ。
俺は咳払いをして白虎とリベル、二人の魔王に向けて言った。
「白虎、リベル。俺は一旦、地上に戻る。デュランダルとムラクモの妹を助けに行かなきゃ。だからその間、二人で協力して、待っていてくれないか?」
俺の提案に、白虎とリベルが視線を交えてから、こちらを向いた。
「了解だよジン。流石に二人の魔王がいる以上、他の勢力も簡単には攻め込めないだろう。安心して行ってくるといいさ」
「承知したのだ旦那様! 離れるのは辛いけど、その分、戻ってきたらいっぱい愛してくださいね!」
おお……おおお。それはまた帰ってきたら、考えるよ。ほら、竜の娘さんたちが怖いから……。
とにかくだ。状況は整理した。すぐにでも地上へ戻ろう。
「ムラクモ、グングニルの場所はわかるか?」
「はい主様。北方氷雪連合です」
北方氷雪連合か。なんか寒そうだな……などと言っている場合ではない。すぐに行かなくては!
「マスター。なんで今、我ではなく、ムラクモにグングニルの居場所を聞いたのだ……」
え。なんか怒ってるよ、この子……。
「だって、頭を使うことは熱血のデュランダルよりも繊細なムラクモのほうがいいかなって……」
「きっーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方、その頃。北方氷雪連合にあるSSS級ダンジョン最深部――グングニルの封印地に一人の少年の影があった。
その少年の名は――シン・カミクラ。
彼の容姿は邪悪そのものだった。黒く揺らめくオーラと金色の瞳孔、頬と額にも金の紋様が浮かんでいる。
シンは磔にされているグングニルの前に立ち、少女の姿をしたSSS級ドラゴンの頬に短剣で浅い線を刻む。赤い血が徐々に溢れて零れていく。竜姫は封印され、意識はない。
彼はグングニルの頬から流れ出る血を、べろりと舐めた。
「さあ――来い。もう一人の俺、ジン・カミクラよ。くくく……はっはははははははははははははははっ!!!!」
シンは狂ったように笑い、牙を剥く。
もうすぐである。歴史に名を残す――竜王戦争が始まるのは。
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