第35話 魔王白虎、轟沈――からの色恋。

 さあ、ニアバハムートの力の一端を見るがいい。魔王白虎よ!


 双竜化を果たした俺は、白い頭髪に紅蓮の差し色が走り、四枚の黒翼と漆黒の尾を携えていた。加えて顕現させた炎黒大太刀レーヴァテイン・ヴァイオレットに目を向ける。バスターソードを思わせる刀身は荒々しく、馬鹿でかい。古代では斬竜刀と呼ばれ、俺たち竜を苦しめた――と、SSSの記憶が語りかける。


 ドラゴンたちを斬るために生まれた剣が、今ではドラゴンを守る刃と化すとは。皮肉なものである。


「勝負だあ竜王っ!!」


 緊迫を加速させるように魔王白虎の咆哮が轟く。彼女が放った数万の稲妻の虎が高速で押し寄せてくる。もはや白雷の津波といった感じだ。


 ――だが。


「主様。ここは私が。よろしいですか」


「ああ。頼むムラクモ!」


「はい。全ては主様のために。闇スキル――《漆黒忘却 ブラックホール・ノヴァ》」


 ムラクモのスペルが発動と同時に、向かってくる白き虎たちを次々と漆黒の闇と吸い込んでいく。まるで底なし沼のように、稲妻の白虎を捕食する。


「な、なんだとおっ!!? だ、だが、まだまだあああああああっ!」


 今度は魔王である白虎本人が、宙を駆け上り、高空から長く伸びた爪を打ち下ろしてくる。


「マスター! 今度は我の番なのだ!」


「よし、頼むぞデュランダル。ド派手にかましてやれえっ!」


「わかったのだ! さあ、舞踏会の始まりなのだ!」


 デュランダルが俺の身体を駆り、赤く燃え上がる! その灼熱が白虎さえも弾き飛ばす。


「ぐっ! な、なんたる炎だ!!」


 白虎が初めて弱気を見せた。ならば、ここで決める!!


「魔王白虎! 我の炎に耐えられるか!? 必殺――《炎帝暴君 サラマンダー・バーン》!!!!」


 その雄叫びに呼応して、今度はこちらが無数の炎竜を顕現させた。その全てが迷うことなく魔王白虎へと突き進む!


「う!? うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?」


 白虎が絶叫を上げ、サラマンダーたちに弄ばれる。次から次へと群がっては火球となって消えていく。やがて全ての炎竜が球体となり、魔王白虎をその中に封じ込めた。


 ――これでチェックメイトだ。


 俺は烈火の気合と、漆黒の深淵を込めて、炎黒大太刀を振り上げた。刀身が真っ赤に、真っ黒に、交互に染まる。竜気と魔力が混ざり合い、刀が最高強度へと昇華していく。


「これで終わりだあああっ! 《竜帝破斬 ドラグ・インパクト》!!!!!」


 掲げたレーヴァテイン・ヴァイオレットを、全力で魔王を封じた火球へと打ち下ろす。 


 その瞬間。


 太陽が爆発したかのような衝撃が、世界を揺らした。全ての雲が吹き飛び、夜の闇を赤く映し出す。


 ――それで終わりだった。


 火球が消え去ると、煤に汚れた魔王白虎が落ちていく。


「み、見事だ……りゅ、おう」


 俺はすいと飛翔し、落下する彼女を抱きとめる。魔王白虎はよく鍛えられた均整の取れた身体をしていた。にもかかわらず胸は中々に大きい。当然、柔らかさも抜群である……って、しまった。抱きとめた瞬間に思い切り胸を掴んでしまった。


「あ、あん。そ、そんなにされるとオ、オレ……いや白虎は恥ずかしゅうございます。旦那様」


 え。なんで。なんでそうなるのかしら……。あと、色っぽい声を出さないで下さい。


「マスター……」

「主様……」


 ひっ! 自分の中から殺意を感じる! そんな馬鹿げた体験をすることになろうとは!


「こ、これは誤解だ。うん。誤解だよ、みんな。ねえ!」


「マスタアアアアアアアアっ!!」


「主様あああああああああっ!!」



 こうして――双竜化により、魔王白虎を撃退した俺達はリベルの元へと凱旋するのであった。


 俺がデュランダルとムラクモにくどくどとお説教されたのは、言うまでもない。

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