第36話 戦後処理
「で、ジン。何故、白虎を連れてきたのかな?」
俺たちはリベルのヘヴンズタワーへと戻っていた。そして彼の言う通り、何故だか魔王白虎がついてきていた。
「さ、さあ。俺に言われても……」
戦闘後、白虎はずっと俺にべったりくっつている。胸もべったりと二の腕にくっつていてる。
「だって、白虎は旦那様に倒されたのですもの。勝者は、敗者をめとるものでしょう? ぽっ」
えーと……。本来であれば嬉しい状況ではあるのだろう。魔王白虎は健康体の色黒美人で、スタイル抜群だ。――が。しかし。
「はあ。ジン。君は本当にたらしだね。ハーレムでも作るつもりなのかい?」
魔王リベルが呆れながら、左手をひらひらと揺らす。
「本当に、マスターは発情が過ぎるのだ」
「姉様。これは私達がしっかりと主様の貞操を監督する必要があります」
デュランダルとムラクモは二人で「うんうん」と頷きあっている。
「やーいジンジンのスケベー」
「やーいジンジンのスケベー」
リベルの妹である双子姉妹も俺をエロ枠で括ろうとしていた。はあ。なんか最近、こういう展開多いな……。
「ジ、ジン・カミクラ!」
そこへ、この浮かれ雰囲気を切り裂くように相反する声音がした。振り返ると宰相の白ヒゲじいさんだった。こりゃ相当、怒ってるな。
「ワ、ワシは認めんぞ! 今回は魔王白虎が弱かっただけで、おまえのプランが功を成した訳ではないぞおっ! 勘違いするでない!」
喚き散らすじいさんに対して、白虎が戦闘モードの怒気を込めて唸りを上げる。
「あん? 誰が弱いって? 試してみるか、じじいっ!」
「ひ、ひい! と、とにかくワシはその人間を認めない! 皆もそうであろう!?」
白ヒゲの宰相は後ろを振り向き、他の議員たちへと同意を求めるように言葉を投げかけた。だが、議員たちは一様に俯く。
「な!? お、おい! お前達、ど、どうしたのだ! こ、こんな人間に内政を任せてよいのか!?」
議員の一人が、ぼそぼぞと口を開いた。
「お、俺はいいと思う。あの白虎を従えるほどの人間なんだし」
それに続くように、次々と議員たちが意見を述べる。
「私も、その人に任せたほうがいいかなって」
「そうだな……。これで軍事費が大きく削減できるし」
「その分、福祉に力を入れようよ! 私、ずっとやりたかったんだ」
若手議員たちを中心に、次なる国造りのアイデアが飛び出してくる。これならもうこの国は大丈夫だろう。強くそう感じた。
「ば、ばかな! ばかな、はかな、ばかな!!」
一方の宰相じいさんは狼狽が凄まじい。孤立無援とは正にこの状況だ。
「リ、リベル様! こ、こんなバカな連中は、すべてクビにしなくてはなりませんぞお!! ええいお前達、今すぐ、この執務室から出て行くのだあああ!」
「宰相、いや元・宰相。出ていくのは君だよ」
「な、な、な、な、なんですとおっ!!? 正気ですかあっ! こんなゴミのような人間と、それにほだされた無知で愚かな若造どもを優先するのですか!」
魔王リベルの答に、白ヒゲじいさんはよろよろと後退する。顎がガクガクと揺れ、長いヒゲが激しく乱れていた。その光景は、ひどく哀れだった。
「もうこれ以上、醜態を晒すのは止めるんだ。それに今まで国に尽くしてくれた君だ。悪いようにはしない。ただ世代交代のタイミングは必ず訪れる。それが今だった。それだけのことさ。君が悪いわけではないよ」
「ぎ、ぎいいいいいいいい……!」
「宰相、今までありがとう。世話になったよ」
リベルが立ち上がり、深く頭を垂れた。普段は騒がしい双子の姉妹も瞬時に兄に倣う。俺もそれに続いた。やがてフロアすべての者が、宰相へと頭を下げていた。
「ぐぬううううううう! ううううっ!!! お、おのれ!! 愚か者どもがああっ!! か、必ず後悔させてやるう!! ワ、ワシは他の魔王勢力について、必ず復讐してやるかなああああっ!」
白ヒゲじいさんは、その叫びを残して部屋を飛び出していった。ドアが激しく締められると僅かな沈黙がフロアに訪れる。
「……さあ。みんな、すまなかったね。とりあえずジンの勝利と白虎との和解を祝して、パーティーといこうか」
「パーティー!? やたー!」
「パーティー!? やたー!」
リベルの言葉に、双子姉妹がたちまちはしゃぎ出す。それに呼応して部屋の雰囲気が一気に華やかなになった。すごいものだ、魔王姉妹の存在というのは。どんなに沈んだ状況でも、あの双子がいれば、力をが湧いてくる。そんな気がした。
「旦那様。ふつつかものですが、これから白虎のこと、よろしくお願いしますね。まずは、ご飯にします? お風呂にします? それとも……」
こっちの問題もなんとかしなくては……はあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます