第34話 追放サイド:没落への道(その11)

「あんたのギルドに入りたいんだが」


 おお! ついに我がギルドへの希望者が来たか! しかも四人ともしっかりとした身体をしているではないか。これは期待ができそうである。


「よ、よし! いいだろう! とりあえず、あっちのテーブルで話そうではないか」


 俺様は上機嫌で、四人とギルド管理局内の一画に腰を落ち着けた。


「早速だが、ラウダさんよ」


 四人のリーダー的な男が口を開く。まあ、これからは俺様がリーダーだがな!


「なんだ? 俺様の武勇伝を聞きたいのか?」


「いや、それは後でじっくり聞かせてくれよ。ギルドに入る前に、ちょっとした質問があるんだ」


「ほう。今、俺様は機嫌がいい。なんでも聞くがいい」


「盗みの常習犯だってのは、本当かい?」


 心臓が跳ねた。な、何故、それ知っている……。見られたのか? い、いやそれはない。いつも覆面をしていたし、そもそも目撃されたことなど、一度も――あった! さっきぬかるみに放り投げた小僧! まさか、あいつが!


「どうなんだい?」


「そ、そんなわけなかろう。俺様は帝国竜騎士団、第七小隊……」


 いかん。以前の肩書がつい口から出てしまった。


「帝国竜騎士団、第七小隊か。よし、決まりだな」


 目の前の男が、そう告げると他の男たちが一斉に立ち上がった。


「は? な、なにが決まりなのだ?」


 リーダー格の男が、一枚の用紙を取り出し、俺様の眼前に突きつけた。それから管理局全体に響き渡る程の大声で文面を朗読し始める。


「ラウダ・ゴードン。国家反逆罪で逮捕する。帝国皇帝シュナイゼル・シュナイダー」


 な、な、な、なんだとおっ!!


 俺様の動揺を無視して、男が言った。


「我々は帝国所属の情報小隊である。元第七小隊の連中からの報告を受け、ずっとお前を探していた。数々の狼藉はすでに白昼の下にさらされている。大人しく縄につくがいい」


 その宣言に、野次馬たちがざわざわと騒ぎ始めていた。


「あいつ、国家反逆罪だってよ」


「確かに、悪事を働きそうな顔してるよな」


「あれって『ラウダとその家臣』たちとか言う、クソださいギルドの創設者だぜ。あははははっ」


 ふ、ふ、ふざけるなあっ!


 俺様は直ちにテーブルを蹴り倒して、ギルド管理局を飛び出した。まただ! また邪魔者が現れやがった! どこへ行っても、蛆虫みたいに湧いてきやがる!


 俺様は外に出ると、大通りから細い路地へと入り、全速力で走る。連中の怒号が背中に突き刺さっていく。それでも必死に走った。捕まってたまるか! こ、このラウダ・ゴードンさまは、世界を統べる魔王になるのだあっ!


 ひょい。


 突然、道の端から小さなつま先が差し出された。


「なっ!」


 俺様は見事にその足につまづき、顔面からぬかるんだ地面へと突っ込んだ。


「ぶばあっ! げほっ、げほっ! だ、誰だあ! こんなことするやつは!」


 泥に塗れた視界を拭い、どうにか周囲を見渡すと、満面の笑みを浮かべている子供が目についた。こ、こいつは――!


「やあ。さっきはどうも――この泥棒野郎!」


 小僧! こいつは俺様が道端で放り投げた小僧ではないか!


「こ、こ、小僧おおおおおおっ! 貴様かあっ、密告したのは!」


 俺様の咆哮を受けて、小僧はへらへらと愉快そうに笑っている。こいつっ! 許さん! 許さん!


 立ち上がると同時に、俺様は腰のロングソードを抜き放った。


「覚悟しろよ! 小僧、このラウダ・ゴードン様に対する狼藉、万死に値するぞおおおっ!」


「万死に値するのは貴様のほうだ」


 うっ! 気がついた時には、俺様は四人の帝国兵に囲まれていた。い、いつの間に!


「ラウダ・ゴードン! 観念しろ!」


「う、うわああっ!」


 俺様は無茶苦茶にロングソードを振り回す。


「く、来るなあ!」


「往生際が悪いぞ。それでも元帝国軍人か」


 う、うるせえっ! そんなこと関係あるかああっ!


 男の一人が、俺様の手首をつかみ取り、思い切り捻った。


「いだあいいいいいっ! は、放せえええっ!」


 俺様はぬかるんだ地面に再び、押し付けられた。


「なんて情けない男なんだ……」


「こんなやつが帝国竜騎士団にいたなんて、同じ軍人として恥ずかしいな」


「自分の行いを悔いるがいい。連れていけっ!」


 リーダー格の男が命じると、俺様は後ろ手に縛られ、引きずられた。


「ひいっ! や、やめろ! た、助けてええ! 誰かあっ!」


 泥に塗れながら、顔を上げると小僧と目があった。


「た、頼む小僧! 助けてくれえ! か、金は返してやるから! なあ、それでいいだろうが! 俺様を助けろおおおおおお!」


 小僧が笑っている。笑っていやがる!!


「バーカ。地獄に落ちろ」


 そう言って、小僧が泥団子を俺様の顔面と投げつけてきた。き、きさまあああっ!


「帝国へ到着し次第、貴様の裁判が行われる。まあおそらく、よくて無期懲役、悪ければ死罪だろう。覚悟しておくがいい」


 死罪? 何を言っているのだ。この俺様が死罪? そんなことがあっていいはずがない! あっていいはずがないんだああああああっ!

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