第33話 追放サイド:没落への道(その10)
「くくく。あの家、意外と貯め込んでいたな」
俺様はライトニングとグラインから、どうにか逃げ延び、盗みを働き続けていた。おかけである程度の金を手にすることができた。
「お、おい! おまえ! 母さんのお金をか、返せ!」
振り返ると、先程、盗みに入った家の小僧が叫んでいた。ち。つけられたか。俺様としたことが……。だがまあいい。相手は子供だ。放っておこう。
踵を返して歩き出すと、小僧が後ろから足に掴みかかってきた。
「か、返せ! それは、母さんの病院にはらうお金なんだ! 返せよ!」
だから何だというのだ。そんなことは俺様には関係ない。小僧の首根っこを掴んで、ぽいっと放り上げる。小僧は路肩のぬかるみへと落ち、泥まみれとなって泣き出した。やかましいことこの上ない。
「くそ! 返せ! 返せよ! 泥棒野郎!!」
頭に来るガキだな……と思ったが、これ以上、無駄な騒ぎを起こすと、またライトニングやグラインが来るかもしれない。俺様はぐっと堪えて、その場を後にした。これが大人の対応であり、戦略的撤退というものだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「金も大分集まったな。これならば、そろそろギルドを立ち上げられるはずだ」
身体に宿した魔王テンガイの回復を待つ間、俺様は、俺様による、俺様のための、俺様のだけの軍団を作ることにした。もはや帝国などどうでもいい!
北方氷雪連合の領土を彷徨う最中、天啓に近い考えが頭に生まれたのだ。それがギルドだ。俺様ほどの男であれば、俺様のために尽くしたい人間が山ほどいるであろうことを失念していた。何故、こんな当たり前のことを忘れていたのか。
「くくく。ここから俺様の英雄譚が始まるのだ。ジン・カミクラだけではなく、もはや帝国すらも討滅してやる!!」
この日は、久しぶりに晴れていた。まるで俺様の門出を祝っているようではないか! 意気揚々と、氷雪連合のギルド管理局へと訪れる。
「いらっしゃいませー。ご用件を承りまあす」
受付の女に、ギルド創設の手続きを依頼し、申請に必要な料金を払う。どうせ盗んだ金だ。惜しくはない。
「ギルド名は何になさいますかあ?」
ギルド名。そうか。考えていなかった。どうするか……。
「よし。では、これで行こう。我がギルド名は『ラウダとその家臣たち』だ!」
俺様が高らかに宣言すると、受付の女がぽかんと口をあける。ふふ。あまりに崇高なネーミングに驚愕しているようだな。
「ぷぷぷぷ……あはははははっ!」
な、なにを突然、笑いだしているのだ、この女は!
「なんだ!? 何がおかしい!」
「あ、い、いえ。わ、私、かっこいいものを見ると、笑っちゃうんですよお。だからお気になさらずに。『ラウダとその家臣たち』と……ぷぷ。ぷぷぷ」
そ、そうか。かっこいいものを見ると笑ってしまうのであれば、確かに笑うべきところであろう。なにせこの俺様のギルド名だからな!
「はあい。これで手続き完了でえす。あとのお仲間の募集と、クエスト受注とかはそちらのボードでお願いしまあす」
よし。偉大なる魔王ラウダ・ゴードン様の、華麗なる一歩だな。とりあえず、まずは部下を集める必要があるな。
俺様はメンバー募集のボードに「部下募集」のメッセージを記す。これですぐに我がギルド「ラウダとその家臣たち」は氷雪連合でトップとなるであろう。その次は大陸全土へと展開するのだ!! ふはははははっ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
メンバー募集の掲示をしてから、数日が過ぎていた。
「おかしい! 何故、一人も応募者がいないのだ!」
腹立たしい思いを抱えながら、募集をボードを確認しに行く。すると、俺様の募集文の前に二人組の男がいた。おお! いるではないか希望者が。中々の体格をしており、いい部下になりそうな人材だ。
「これ見てみろよ。『ラウダとその家臣たち』だとよ。本気かよ、これ。超絶だせえな」
「いや。流石にイタズラだろう。こんな稚拙なギルド名をつけるやつがいるわけないだろうが」
「まあ、そうか。そうだな。流石に、これはないか。これは」
そう言いながら、二人は去っていった。俺様はわなわなと震え、血管が膨れる上がるのを感じる。
「お、おのれ……! 俺様のギルドを馬鹿にしやがってえ……」
俺様の崇高なギルドを理解できないとは、なんと愚かな連中なのだ! そんなクズどもにコケにされるとは……!
「なあ、あんた」
不意に声をかけられ、怒りのままに振り返ると、そこに剣士風の男たちが四人立っていた。屈強な体躯に、立派な獲物をそれぞれにが所持している。
「あんたのギルドに入りたいんだが」
「え?」
「だから、あんたのギルドに入りたいんだが」
おお……おお! ついに俺様の偉大さに気がついた者たちが現れたか! ふふ、あはははっ! そうであろう、そうであろう! このラウダ・ゴードン様に魅力にかかればこのぐらい、簡単なことである!
――だが、この数分後。俺様は屈辱の洗礼を受けることとなる。
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