第31話 軍事費革命

「ふん。小童の分際で……よかろう! ワシとお前の政治手腕、どちらが上かはっきりさせようではないか! もし、お前が負けたら、大人しく他の魔王の供物となるのだ! よいなあっ!


 白ヒゲじいさんが喚いている。負けたら、生贄か。ならば――。


「ああいいよ。じゃあじいさんが負けたら、宰相から退いてもらおうか」


「なっ!?」


 じいさんの目が高速で泳いでいる。まあ宰相とかのポストには興味はないが、俺には負けたら供物になれというのだ。それなりの対価を差し出して貰う必要がある。


「い、いいだろう……いいだろう!! ワシが負けることなどない!」


「よし。じゃあ勝負成立だな。いいかリベル?」


 俺の視線を受け、リベルが頷く。


「がんばれジンジン!」

「がんばれジンジン!」


 魔王の双子姉妹が笑顔で声援を送ってくれる。愛らしいもんだ。


 さてと。俺はリベルが空間に表示している様々な数値を眺めて、戦略を考える。


「リベル。この国は魔力供給を隣国から六割近く受けている。ということは、そことの関係は良好ということか?」


「そうだね。隣国である斑鳩区域とは先々代からの付き合いで信頼も厚いね」


 ふむふむ。となると魔力の生産は今の所、隣国頼みでいいな。次は――。


「国民に対しての社会保障費用が著しく低い。それなのに税率は高い。これではみんなやる気もでないし、人口が流出してしまう」


「うん。そうだね。ボクもそこは気になっていた」


 俺とリベルが議論を重ねていると、白ひげじいさんが割り込んできた。


「馬鹿者が! そんなことはよそ者のお前に言われんでもわかっとるわ!」


 じいさんは杖を俺へと向け、目を剥いて唾を飛ばしてくる。


「じゃが、今は他の魔王勢力から攻撃を受けておる! 本来、増える戦費を賄うにはさらなる税率アップが必要なところを、ワシの天才的な政治力のおかけで、どうにか国が保っておるのだ! わかったか小童!!」


 なるほどね。やはり問題は軍事費か。となれば問題解決は簡単だ。


「おっけー。じゃあ戦費をゼロにしよう」


「はっ?」


 白ひげじいさんと部屋にいた議員たちが、一斉に口をぽかんと開けた。


「な、な、なにをばかなことを言っておるかあっ! そんなことをしたらたちまち我が国は侵略されてしまうだろうがあっ!!」


 顔を真っ赤にして抗議するじいさんに続き、議員たちも罵詈雑言を浴びせてくる。


「なんだよ。竜王とか言うから、期待してみれば」


「やっぱ人間って馬鹿なんだな」


「はあ。あんた、とっとと供物になれば?」


 言いたい放題である。まあ、いいたい奴には言わせておけばいい。


「ジン。何か考えがあるんだろう? 聞かせてもらえるかい?」


 リベルが髪をかき上げ、俺にウインクをした。なんて美しいのだ……魔王リベルよ。


 咳払いをして気を取り直すと、魔王の質問に答える。


「うん。こっちに攻めてくる連中は、とりあえず俺とムラクモで追っ払う。だから戦費はもういらない」


 その回答に、リベルはしばらく呆けた表情をする。それからややあって、大きく笑った。


「あはは。それはボクらにとっては僥倖だね。確かにジンならば可能な戦略だ」


「お、お待ち下さい! リベル様! こ、こんな小童に国の命運を託すおつもりですか!?」


 じいさんが今度は杖をぶんぶん振り回して騒ぎ立てる。元気なご老人だこと。宰相であるじいさんの意見に、リベルは顎に手をあてて「ふむ」と呟く。それから微笑を浮かべて口を開いた。


「それもそうだね。ではこうしよう。次に侵略があった場合、ジンに戦ってもらう。それで結果が出れば、彼のプランを採用ということでどうだろうか?」


「む、むう……し、しかし、もし防衛戦に失敗するようなことがあれば、国の被害が大きくなりますぞ!」


「その時は、ラルと、エルが敵をぶっとばすのだ!」

「その時は、エルと、ラルが敵をぶっとばすのだ!」


 突然、魔王双子姉妹がはしゃぎ出す。そうか。こいつらも魔王の妹なんだから、超強いということか。


「そうだね。ではジンが防衛に失敗した場合はボクとラル、エルが敵を殲滅しよう」


「し、しかし、それではリベル様たちが国土に展開されている防御壁が弱体化してしまいますぞ!」


「防御壁? リベル、なんなのそれ?」


「なあに。各地域の魔王が自国に張っているバリアみたいなものさ。魔王血族の魔力に連動し、強度が決まる感じだね。けど、数回程度なら魔力供給を断っても大丈夫さ。さすがに連日となるときついけどね」


 なるほど。だからリベル自身が地上に来ても平気だったというわけか。


「よし! じゃあ俺の作戦は一旦、プレで採用ということで。結果がでなければ俺は供物。それでいいかな?」


 自分で供物になるとか言ってるよ、俺。しかし、ここまで自分を追い詰めた以上、後はやるしかない。


 ただ、そこまで考えてから、ちょっとばかり傲慢だったかもしれないという気もしてきた。SSSになって浮足立っているのかも……。すると、リベルが傍らにやってきてから耳打ちをした。


「ありがとうジン。これで皆も、広い視野を手に入れるきっかけになると思うよ」


 そ、そうかな? じゃあ、まあいいか!


「よーし! じゃあジンジン、がんばるのだ!!」

「よーし! じゃあジンジン、がんばるのだ!!」


 双子姉妹が交互に飛び跳ねて応援してくれている。こんなにうれしいことはない!


「ぐぬぬぬ……!」


 白ひげじいさんが、老人とは思えないほどに歯ぎしりをして、俺のことを睨んでいた。やっぱり歯って、大事だよね。うん。


 さてと。啖呵を切った以上は、しっかりとやらないとな。頼むよ、ムラクモ。心の中に語りかけると、頭の中にふわりと彼女の声がした。


「おまかせ下さい主様。このムラクモ、どこまでも主様とともに」


 それから、戦いの機会はすぐにやってきた。

 そして――その戦いこそが、新たな力の芽吹きとなる。


 炎竜デュランダル、闇竜ムラクモとの二体同時竜化――「双竜化」の発動だ。

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