第27話 追放サイド:没落への道(その8)
魔王テンガイとの魔王化を遂げた俺様は、喜びに打ち震えていた。漆黒のスーツに、真紅のマント。髪は紫紺となり、腰までゆるりと伸びている。まさに魔王。魔王ラウダ・ゴードン!
「よし――」
手始めに俺様は北方氷雪連合の首都へとやって来た。流石は中心街、寒さの中でも華やかだ。雪景色と相まってクリスマスの夜のようである。
まずは飯と女だろう。うえへへへ。
ここの女たちはどいつも絹のような肌をし、美形揃いだ。片っ端から頂いてやろう。飯のほうはやはり羊だ。マトンをこんがりと焦がして、たっぷりと頂いてやろう。さて、どちらから行くか。
ふと、俺様の目に菓子店から出てきた素朴な女が目についた。厚手の服を来ているが、魔王化した今の俺様には関係ない。透視スキルで女の肢体を舐め回す。ふむふむ。中々いい肉付きをしてやがる。
決定。まずは女だ。
「おい」
「はい? なんでしょうか?」
俺様が声をかけると、清楚な雰囲気の女は笑顔で振り返った。加虐心がぬらぬらと浮かんでくる。俺様は問答無用で、女の服を引き裂いた。
「きゃああああっ!! な、何をするんですか!」
ひひひ……いい声で鳴くじゃないか。ますますたまらない。
続いて女の下着へと手を伸ばす。
「だ、誰か! 誰か助けてください!!」
誰も来やしないぜ。人間所詮、自分が一番大事だからな。他人が困っていても見て見ぬ振りをする。それが人間だ。くくく。
「止まれ。ラウダ・ゴードン」
ち。どうやら馬鹿がいたようだ。それに、この声は……忘れもしない! 隻眼の銀狼、グライン・オズワルド! 俺様は振り返り、敵の面を睨みつける。やはりそこにはグラインが立っていた。余裕の顔しやがって、ムカつくんだよ! てめえは!
グラインはつかつかと歩み寄り、俺様から女を引き離す。
「私が貴様の相手をしてやろう。この女性は解放するんだ」
「はははっ! ああ、いいぜ! お前を八つ裂きにするほうが愉快だからなあっ!」
グラインは自分の外套を女にかけた。キザなことをする野郎だ。胸糞悪い。
「さあ。逃げるんだ」
「あ、ありがとうございます!」
女はグラインに一礼してから足早に去っていった。
「では。始めようか。ラウダ・ゴードン」
「ほう。俺様の名を知っていたか」
「自分で叫んでいただろうが。酒場でな。それに、お前はもう有名人だ」
有名人? そうかそうか! ようやく世間が俺様の偉大さに気がついたのか!
「グングニルのダンジョンで、部下を置き去りにして自分だけ逃げた臆病者の小隊長、とな」
「な、なんだとお!」
「それだけではない。お前、SSSランカーのジン・カミクラを追放したそうだな」
ジン・カミクラ! その名を俺様の前で言うんじゃね!
「SSSになれるのは世界で唯一人。国の宝と言っていい存在だ。各国が聖痕保持者を求め、探していた。その至高の存在を追放するとは、愚か過ぎて、笑いが止まらん」
こいつぅぅぅ……! 言わせておけば、調子に乗りやがってえええええ!
「おまけにラウダよ。お前、グングニルを手に入れてSSSになるつもりだったらしいな。自分がFランク以下だと言うのに、身の程知らずもここまで来ると尊敬できる」
「てめえええええええええええっ! ふざけるんじぇねえええええっ! 大体、なんで、てめえがそんなことを知ってるんだ! ああっ!?」
「オレっちが色々教えたんだよねー」
雷光が瞬き、グラインの傍らに金色の少年が現れた。その姿は忘れもしない憎き存在。元々は俺様の下僕であったはずのA級の雷属性ドラゴン――ライトニング!
「ラ、ライトニングウウウウッ! き、貴様、許さんぞおおおお」
「それはオレっちの台詞だぜ」
ライトニングはグラインに並ぶと、何やら二人で語りだした。
「グラインさんよ。ここは共闘といこうぜ。ラウダに灸を据える」
「いいだろう。北方氷雪連合としても、これ以上の狼藉を見過ごすわけにはいかない」
敵となった二人は、ニヤリと笑うとそれぞれ構えを取った。なんだ、なんなんだそのツラは! 余裕で勝てます、みたいな雰囲気出してんじゃねーぞ! だが、奴らはすぐに後悔するだろうよ。くくく。
「バカだな。お前ら。ふはははっ!!! 今の俺様は魔王だ! 魔王種となったこの新生ラウダ・ゴードンの力を味わうがいいいいいいいいいいっ!」
高らかな宣言とともに、俺様は右手に意識を集中させてから、一気に振り下ろした。
「くらええええええっ! 魔王スキル《魔爪斬月 ニードル・スラッシュ》!!」
死ねえええええっ! 虫けらどもがああああああああっ!
しーん。
は?
あれ?
え、何も、出ない?
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