第17話 魔王と大聖女が色々かわいい!
「ま。大体の話はわかったよ。俺がSSSランカーの力で他の魔王を牽制すればいいんだろ?」
ベッドの上から、魔王の男の子であるリベル・フォン・ミハエルに確認する。彼は小さく頷くと口を開いた。
「期待していいのかな。ジン・カミクラ」
金色の瞳が揺れている。よく見ると、こいつ……かわいいな。
「ん? なんだいジン・カミクラ」
魔王が小首を傾げている。ピンク色の髪がさらりと風に揺れた。
「なあリベルくん。おまえ、今、何歳よ?」
「六万と五千四百歳くらい、だったかな」
六万! 異次元に年上だった……。ま、まあそんなことよりも、だ。
「よし。とりあえず飯を食おう」
「え。め、めし?」
俺はリベルに有無を言わさず、腕を引いて部屋を出た。そういえば入団審査の後、大聖女兼皇女のアリスが宮廷に来いと言っていたっけ……。ちょうといいから顔を出して、何か食わせてもらおう。
そうだ。デュランダルも誘うか。心の中で、相棒へと語りかける。
おーい。デュランダル。おーい。
お。微かに何か聞こえる。
「マスター……我はしばらく営業停止なのだ……」
どうやら彼女も相当な疲労を抱えているようだ。俺はなんとなく胸の痣に手を添えてから「おやすみデュランダル。ありがとな」と呟いた。
それから俺と魔王リベルは西欧聖女騎士皇国の長い敷地をあるいては、ようやく皇女の宮廷へとたどり着いた。色とりどりの花々と深緑に包まれた自然あふれる宮殿だった。
「これは、中々すばらしいね」
リベルが周囲を見渡し、感嘆している。意外と人間染みたところもあるようだ。微笑ましい。
「ん? なんだいジン」
「いや。なあに。魔王様はかわいいな、と思ってさ」
「な、何を言うんだ君は。て、照れるじゃないか……」
リベルが髪と同じく頬をピンクにして、照れている。おお。魔王がもじもじしている。なんとも愛らしいものだ。
「あらジン!? もう起きて平気なのですか!?」
宮殿の中からアリスが駆けてきた。なんだかすごい久しぶりに会った気がする。俺は服を正して、片膝をつく。
「はい皇女殿下。ご迷惑をおかけしました。この通り、回復いたしました」
彼女は俺の前で屈み込むと、そのまま腕を回して抱きついてきた。
「よかった……。本当によかったです」
彼女はそう言うと、今度は俺の手を握ってから、揺らめく紫紺の瞳で見つめてくる。まるで絵画や彫刻のように美しい。そしてやはり彼女からは、ほんのりと花の香りがした。
「命を賭して、農村の方々を救ってくれた聞きました。国を代表してお礼申し上げます。本当にありがとう。ジン」
「いえ。もったいないお言葉です。皇女殿下」
「アリス」
「え?」
「わたくしのことはアリスと呼んで下さい」
「え、いや。それは流石にまずいですよ。皇女殿下」
彼女は頬をぱんぱんに膨らませて「むー」と言っている。はあ。仕方がないな。
「わかったよ。アリス」
その瞬間、彼女は夏の青空のように清々しい笑顔になった。
「ジン。いつまでいちゃついているんだい?」
あ。しまった。天下の魔王様を放置してしまった。
「すまんすまん。アリス、こいつは魔王のリベル。何か食べさせてもらおうと思って来たんだけど」
「ま、魔王……? え。魔王って、あの魔王ですか?」
アリスが眉根を寄せて、幼い魔王を凝視している。俺とリゼルは二人で同時に頷いた。
「そ、そうですか……もうジンはなんだか全てが規格外になってきましたね……」
アリスが異常事態を飲み込むと、今度はリゼルが彼女の前でうやうやしく一礼した。
「はじめまして。皇女殿下。ボクはリゼル・フォン・ミハエル。先程、ジンを頂戴しましたので、お見知りおきを」
その挨拶に、アリスの頬がぴくりと動いた。なんだか嫌な予感がする。
「ジンはあげません」
「いや。ジンはボクのものになったのですよ」
「なってません。わたくしのです」
いや。俺は俺のだよ。幼さの残る高貴さ抜群の二人が火花を散らしている。はあ。何故、こうなるのか。
「あー! いいから、二人とも飯にしよう! 飯!」
俺は強引に二人の間に割って入ると、腕を掴んで三人一緒に宮殿へと入っていく。
「待って下さいジン! こういう話はきっちりしておかないといけませんわ!」
「そうだよジン。君が魔界へ来るのは決まったのだから」
「決まってません。ジンは宮廷にいます。ずっーと、宮廷でわたくしと暮らすんです!」
「いやいや。頭の悪い皇女だな。ジンはボクとアンダーワールドで生きるんだよ」
もういい。もういいのだよ。そんなことよりも俺は腹が減ったんだ!
待っていろ魔牛と聖牛の肉塊たちよ!
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