第25話

 一年後。


 姉さんが進学して、家がかなり静かになった。僕も何か物足りないと思うようにもなり、恋しさはこれまでとは比べ物にならないほどに増した。しかし、改めて姉さんを好きだということを認識した。


 朝になっても僕に抱きついてくる人はいなくなり、家で誰かの帰りを待っていても、リビングのドアを思いっきりこじ開けて『ただいまー!』と元気な声を発する人はいない。当たり前だった日常は、いきなり当たり前ではなくなった。やはり姉さんの存在は大きいものだったのだ。


 恋しい。辛い。そんな負の感情を、頭の中から一時的に消す方法を僕は思いついた。原稿用紙と筆記用具。あとはそれらを使用するための机、椅子。小説を書くことは、それなりに効果があると思った。


 辛いと思うのは、逆を言えば楽しいとか嬉しいことがないということ。ならばその感情になれば、一時的ではあるものの、僕は復活を遂げることができるのでは、と考えた。意外と僕の考えは正解に近く、書いている小説の内容をまさに自分が楽しくなったり、嬉しくなったりすることを時にしたのだ。


 その内容というのが、全て姉さんとのエピソードである。イチャイチャは当然のこと、際どいこととか完全にエロいことまで、全てを曝け出して字にしてみた。完成してからもう一度読み返してみたが、これはあまり他の人には見せられないものだった。いや、そもそもエロいことを内容にしている時点で、あまり読んで欲しいとは思えないし、思うわけがない。


「うん、変えよう」


 自分の提案したことを実行する。ペンを握り直して、そして原稿用紙の上を走らせていった。



 ****



 お昼頃。


 僕ももう二年生となり、これからのことを真面目に考えなくてはならない時期が迫っていた。だがしかし、僕の場合は進路については迷うことがなく、姉さんとの同じ大学に進学したいと思っている。


 それも当然。姉さんはそれを待ち望んで、僕のことを信じて、遠い大学に進んだんだ。それに応えるのは僕の役割であり、義務だと思うのだ。そのようなことがなかったとしても、僕は姉さんとのこれからの幸せを掴むべく、絶対に進む道なのだ。


 季節は夏になっている。ジリジリと突き刺すような暑さが、四季の移り変わりと時間の経過を教えてくれる。決してありがたいことではない。むしろ迷惑だと感じるほどだ。自分がどれだけ暑さに弱いのかが十分に分かる瞬間だった。


 窓を開けて風通しをよくしても、別に温度は変わらない。うーん、使うかな、エアコン。


 リモコンを手に取って、スイッチを押そうとした瞬間に、僕は微かな車のエンジン音とタイヤが動く音が聞こえた。ブロロロ、みたいな音と、ジャリジャリ、みたいな音である。


 うちの車は大抵は父さんが運転しており、母さんはその助手席に乗るくらいである。しかし母さんは今日一日は休みだと言っていたはずだ。父さんはたしか『迎えに行ってくる』とかなんとか言っていたはずだけど……。


 そこで僕は気づいた。迎え、それは僕以外の誰かを迎えに行くこと。僕以外なら、絶対に彼女しかいない。父さんの知り合いのことかもしれないけれど、しかし彼女は僕とのメールでのやり取りで、アピールするようにそんなことを匂わしていた。


 季節は夏。僕も現在夏休み。世間では夏季休業というのが一般的だ。それは小学校、中学校、高校、そして大学も一緒。


 僕は部屋の扉をすぐに開けて、玄関へと向かった。


 ガチャリ、と鍵が開けられる。


「あ、おかえり……」


 荷物を持って現れたのは、髪を綺麗な茶色に染めて、長さも肩あたりまでに切っている、可愛らしい姉さんだった。


「……」

「えっ、どうしたの?」


 静止。ずっと止まっている状態。僕は困惑した。


 突然、姉さんは持っていた荷物から手を離し、その場に落とした。


 すると……。


 ガバッと、僕に抱きついてきた。


「えっ? ちょっ、ちょっと姉さん!?」

「うぅ〜〜〜!!! 和くぅーん! 会いたかったよぉー!」


 抱きしめる力が強くて少し痛い。しかし痛さなどどうでもよく、僕は姉さんのそれに応えるべく腕を背中に回して、抱き合った。それを母さんは優しく見守っていた。


「ただいまぁ……! ただいまぁ〜!」

「うんうん、おかえり……、姉さん……」


 しばらく抱き合っていると、次は父さんが帰ってきた。


「ただい……いや、早すぎるだろ二人とも……」

「な、何が?」

「いいや、なんでもない。続けたいなら続けていいぞ。そのかわり静かにな」

「は、はーい……」


 父さんと母さんはゆっくりとリビングに入っていく。


「どうするの? 家に上がるの? 上がらないの?」

「ずっとこうしておく……」

「はいはい。なら、僕もこうしておくよ。大好きな君のためにね……」

「えへへ、嬉しいこと言ってくれるようになったんだね」

「まあ、これでも高校生で、ちゃんと成長しているからね」

「ふーん。じゃあもうちょっと、私のこと嬉しくさせてみてよ!」

「いいよ。やってやる」


 僕が顔を近づけると、姉さんは困ったようなそぶりを見せた。


「えっ、ちょっと待って!」

「……」

「無言にならないでよ! こ、心の準備が……!」

「……」

「あ……ん……」


 目を閉じて、何かを待つ姿勢。だが僕の視線は唇ではなく、姉さんの耳。


 その耳に顔を近づけた。


「……大好きだよ、姉さん」

「ッ……!?」


 そう囁くと、姉さんは急に僕から離れて、赤くなった顔を隠した。かわいい。


「はははっ! キスだと思ったの?」

「むぅ……!」

「でも、嬉しかったよね?」

「う、うん……。な、なんだろう、すごくテクニシャンになったね……」

「ありがと。さあ、上がろう」

「うん……」


 姉さんが久しぶりに帰ってきた。



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 あとは姉さんとのイチャイチャ回を書いて、最終話を書いてって感じですかね。

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