第24話

 恋しかった。そう思ったのは初めてだった。


 胸の奥で、なんだか足りないような物がある感じがして、イライラはしていないし腹が立つわけでもないが、静かに不満がだんだん重なっていった。


 姉さんと交流をしなくなってどれくらい経つのだろう。多分もう、かれこれ一ヶ月はボディタッチをしていない。いつもと違うと思ってしまうのは、やはり姉さんが日常的にそんなことをしていたからというのが理由に他ならない。僕もそれを普通だと認識していたわけだし。


 姉さんとの時間がなくなって、僕は小説を書く時間が作れるようになった。しかし行き詰まるのは回避できず、途中で気に食わなくなって書くのをやめるのがお決まりだ。


 主人公がヒロインとデートをするシーンを書きたいが、どうにも想像が膨らまず、止まる。思わせぶりな態度を取るヒロインの会話分を書こうとするも、止まる。何度も何度も、止まる、止まる。


 小説ではあるものの、僕はラブラブなシーンとか、ザ・恋愛みたいなシーンを書く時、いつも姉さんとの性行為を思い出してしまうのだ。それで顔が赤くなって、それで手が止まって、それで暇潰しに横になって、それで寝る。


 はぁ……。


 父さんはいつになったら、大学を姉さんに紹介するんだろう……。



 ****



 夕食が終わり、父さんが家族を招集した。姉さんは元々、大学進学を希望しており未だに希望にそう学校は見つかっていなかったのだという。そんな中、父さんは今朝に話してくれたことを姉さんにも話した。


 父さんの話を聞いている姉さんは、たまに難しそうな顔をしたり、どこか嫌な思いをしているような顔をしたりと何か思うことがありそうだった。


「まず第一に、この都市からは出ること。これが一つ目の前提条件だ」

「……」

「どうしたんだ、水羽?」

「いや、来年からは通うことになるんだよね? 私、もう三年生だし……」

「ああ。水羽もそのつもりなんだろう? 前から大学に行く気だったじゃないか」

「つまりはさ……和くんが同じ大学に入学するまでは離れ離れになるってことだよね? だってそうでしょ? 私は二つ年上だから、二年は会えなくなって……」

「まあ、そうなるな」

「厳密に言えば夏休みとかで帰ってこられるけどさ、それでもそれ以外の期間会えなくなるのは、流石に私でも辛いよ……」


 珍しく本当に辛そうにしている姉さん。とてもレアだから目に焼き付けておこう。それでいてとても可愛い。


「和也はどう思うんだ?」

「えっ? 僕?」

「和也はどうなんだ? 水羽と別れて寂しいと思うが、それでもお前は残りの高校生活を頑張れるか?」

「寂しくはなるけど、でもやっぱり、その先に僕たちの幸せがあるのなら、それを信じて頑張れるかもしれない」

「和也は賛成か。水羽は?」

「少し考えさせて……」

「分かった」


 姉さんにとって、僕はかけがえのない存在なのか。大学に進学するということになれば、父さんの言っている一番条件は避けられないだろう。どちらにせよ、家から遠く離れた大学に行くことになるのだから。


 姉さんに進学したいと言う願望があるなら即答だろうが、僕という存在が大きいのか返答に遅れている。他に何か方法でもあるのだろうか。


「うん……。うん……。無理か……」


 何やら独り言を話している。


「どんなに考えても、他の方法は浮かばないね。和くんとは離れたくはないけれど、大学には進学したいし……」

「時間はまだまだある。ゆっくり考えてもらっても構わないさ」

「うん……」


 夕食の後の団らんは、かなり考えなければならないことの話をして、そして終えた。姉さんは『一人になりたいから……』という理由で、すぐに部屋に戻って行った。


 僕も小説の執筆のために戻った。しかし何も進まなかった。



 ****



 朝食を食べる直前に、家族全員に向かって姉さんが言った。


「私、お父さんの条件を飲む……」


 食材が載っている皿をテーブルに置いている僕や父さんは、特段驚く仕草はしなかった。


「そうか……。いいんだな……?」

「うん。だって、その先に幸せがあると思うから……」

「なるほど」


 父さんは納得したように、腕を組んで数回頷いた。


 姉さんはその後も、僕と離れ離れになっても大学に行くという意向を固めた。父さんは立地が適していると思われる大学に目星をつけながら、それを姉さんに紹介した。僕は口を出さなかった。出すべきことではなかったから。


 それからというもの、姉さんは作家としての仕事をこなしながら勉学に励んだ。正直姉さんは学校でもトップクラスの成績のため、そんなにもう勉強しなくても受かるとは思うが、『備えあれば憂いなし、なんて言うでしょ?』と返された。そのせいで、姉さんはあまり部屋から出なくなった。いや、ちゃんと勉強してるからだ。決して引きこもっているわけではない。


 そのせいで、僕は姉さんと接する機会が少なくなった。なぜか噛み合わない僕たち。僕は別に何もなくて時間はあるが、姉さんは違い時間がないのだ。どうしてこういい感じにはならないのだろう。なんだか悲しく思えてきた。


 また恋しさは増した。



———————————————————————



 かなり飛んで、一年後の話を書きます。姉さんが進学してからのお話ですね。


 そして弟くんが進学して……という形で、今作は締めたいと思います。

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