第22話
人生が終わった、と思う瞬間。人はどうするのだろうか。諦める? もしくは諦めない? その絶体絶命の状況を打破する策があれば、当然諦めることはないだろう。しかし、その策が無ければ?
諦める、の一択だ。
「え、えーっと……その……僕たちは……その……」
「ゆっくりでいいのよ〜。そんなに焦らずに、いつもの感じでリラックスリラックス!」
リラックスなんてできるかぁー! と言葉に出して言いたい僕は、両親の詰問にあっていた。横にいる姉さんは少し頬を赤くして、モジモジしながら俯いている。うん、僕が全部説明しないといけない流れだな、これ!
「ぼ、僕たちは……、肉体関係があるんです……。はい……」
「ふむ……」
「うんうん! 分かってるよ〜!」
死にたい。もう家を飛び出していいかな。
「それで?」
それで? いや、それでもう終わりだよ。何を求めてんだよ、この人は。
「どうして肉体関係に至ったのか、それも説明してくれるか?」
「う……。さ、流石にそれは……」
「お母さんも聞きたいなぁ〜! 和也が攻めなのか受けなのか、好きな体位とかも気になる気になる!」
「そこまでは言わないよ! と、とりあえず、どういう経緯でそうなったかだよね! 分かったよ! 説明するさ!」
姉さんは未だに俯いたままであった。
僕は父さんの冷ややか眼差しと、母さんのキラキラした興味深そうな眼差しに突き刺されながら、どういう理由で性行為に至ったかを、きちんと説明した。めちゃくちゃ恥ずかしい。
「うんうん……! それで、どういう体位がお好きなのかしら!」
「えっ、それも言うの!?」
「当然でしょ! 言わなきゃならないことなんだから!」
「いや、どう考えても、必要のないことなのでは……」
「答えなさい」
「はい……」
なんだろう。今すぐ逃げ出していいかな。
「せ、正常位……です……」
「ふむふむ……。ノーマルなのね……」
マジで死にたい。てか、姉さんも助け舟くらいは出して欲しいものなんだけどな。
「そんなことはどうでもいいんだ! とにかく、二人がそういうことを家でしている、これがまず問題点としてあげられるんだ! 体位の話なんか後にしてくれ!」
「もう〜! そんなに怒らないでよ、あなた。別に対して問題になんてならないと思うわよ、私は」
「な、なんでそんなことが言えるんだ。だって二人は姉弟で……」
「姉弟といっても、義理でしょ? どこが問題なのよ?」
「義理であっても姉弟は姉弟だ! 家族という一つの枠組みの中に存在するものなんだぞ!」
「でも血は繋がってないわよ?」
「ぐっ……。た、たしかに……」
なんだこの静かな喧嘩は。ああ、母さんが言いくるめているだけなのか。
「ええい! それでも姉弟でそんなことをするのはダメだぁぁぁぁあ!!! 今後、水羽と和也は、これ以上近づくことを禁ずる! 分かったか!」
「「えっ!?」」
「今日はもう寝ろ! それも自分の部屋だぞ! 絶対にお互いの部屋には入らないこと! 絶対だぞ!」
暴論を吐く父さんの命令で、僕は自分の部屋に連行されてしまった。恥ずかしさのあまり、頭がうまく回転せず、結局疲れて寝てしまったのだった。
****
「あ、姉さんおはよう……」
「おはよ、和くん!」
元気だな。
「って、朝からなんだよ姉さん!」
「んぅ〜〜〜! お父さんがあんなこと言ってたけど、お姉ちゃんはどんなことがあっても和くんからは離れないからね!」
「ちょっと待って! ホントに! 父さんが見てるって!」
「ウソ……」
チラリと、姉さんは振り向いた。
「昨日、私が言ったことをもう忘れているのか? 水羽、和也……」
ものすごく怖い。鬼の形相とは、まさに今僕たちが見ている父さんの顔のことを言うのだろう。
「離れろ」
「やぁだぁ〜! 和くんとずっとこうしているのぉ〜!」
「あらあら、あんまり効果がないようね、あなた? あれだけ言っても意味がないほど、二人は愛し合っていることが分かったでしょ?」
「いいや、分からないな。そしてこの二人も分かっていない。愛するということが、どのようなことなのか、何一つ分かっていない」
なんだと? 愛するということが分かってない、だと? ふざけるな。僕はこんなにも姉さんを想い、姉さんと体を重ねて、それで今に至るというのに……。それが何も分かってないだと? 分かってないのは父さんの方だ。
僕は父さんを睨んだ。
「なんだ、和也?」
「どこが分かってないって言うのさ? 僕らはちゃんと愛し合っていると思ってる」
「ほほう。ただ体を重ねただけでか? それならば遊びでそのような関係を持つ人間は愛し合っていると言うのか?」
「ぐっ……」
言い返せない。たしかに父さんの言う通り、僕たちは体を重ねて、お互いを求めているだけだ。それを考えると、父さんの言っていることは正しく思える。
「いや、そんなに落ち込まなくていいんだぞ? 愛するという基準は人それぞれだから。父さんは和也たちの関係はまだまだだと思うだけであってだな……」
「どこが、まだまだなのか教えてよ。それと、父さんの基準とかもさ。たしかに、僕は愛するということを、何も知らないかもしれない」
「いいだろう。少し長くはなるが……」
「でも大口叩いてるわけだから、僕が納得するほどのことなんだろうね?」
「ああ、まずは母さんと父さんの馴れ初めから……」
「やっぱりいいですぅー!」
そんな気分の悪くなるような話聞かされて、何かを得られると思ってんのか。
その日の朝、姉さんがくっついてくるものの、父さんがそれを阻止してきて、全くイチャイチャすることができなかった。そして学校に向かうが、学校は学校で生徒がいるわけだから、家よりもイチャイチャすることができなかった。
そしてまた家に戻る。
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