第20話

 頑張ろう……。頑張ろう? 何を?


 ここで瞬時に、『夜の営み』という単語が出てくる僕は、果たして健全で正常な男子高校生という部類に属することができるのだろうか。自分でも属しているとは思っている。いや、分からない。ただ自分が勝手にそう思っているだけである。


 だってそうだろう? 夜の営み……そんなことをしている男子高校生はほとんどいないはずだ。つまり僕は特殊な例で、他の人間からしてみれば、異端の何者でもない。誰かに知られれば、僕はそういうことをする人間だと思われるに違いないし、姉さんも同じくそんな目で見られるに決まっている。そもそも姉弟の間でそのようなことをしていると分かれば、異端も異端、軽蔑される対象になる。


 だからこそ、僕らは誰にもバレてはいけないのだ。バレてはいけないのに、バレる可能性があるにもかかわらず、姉さんは毎日毎日言い寄ってきて、体を求めて、そして僕がそれに応じて……。ズルズルと長引いては、沼にハマったように何度も何度も……。話し合っても効果はなく、姉さんは破ってばかりだ。僕もそれを黙認しているけど。


「だから、感覚を空けてからしようよ。姉さんだって体力的にだいぶ持ってかれてるでしょ? さっきの前戯で軽く、ね?」

「やぁだぁー……! このままするのぉー……! このままゴム無しで、和くんとエッチするのぉー……!」

「はぁ……。分かった、分かったからあんまり声を出さないでよ。リビングには僕たち以外にも人はいるんだからさ」

「大丈夫だよ。お父さんとお母さんは、あんまり部屋に入ろうとしてこないし、流石にバレないと思うよ?」

「そうかなぁ……。最悪の場合も考えて、布団の中でやった方がいいかもね」

「えっ……。ダメだよ、シミだらけになっちゃう……」


 恥ずかしそうにして、頬を染める姉さん。やべえ、可愛い。なんかこの可愛い子をめちゃくちゃにしたい、という本能的な何かがだんだんと大きくなっていた。


「僕の布団なんだから、姉さんが気にすることじゃないよ。それにシミになってもすぐに洗濯すればいいことだしね」

「い、いいの……? お姉ちゃんのエッチな臭いとか付いちゃうよ?」

「別にいいよ。これからそれを承知の上でやるんでしょ? そんなに心配なら、今日はもう終わりにすればいいんじゃないのかな?」

「イジワル言わないでよぉ……。私だって、ちょっとはそういうこと気にするし……」

「だから問題ないってば。はぁ……。あークソ……。姉さんがエロすぎて我慢できないかもしれない……」

「ふぇ……? きゃっ……!」


 めんどくさくなった僕は、とりあえず姉さんを押し倒してみた。


 そして夜の営みが始まる。



 ****



 マズいことになってしまった。これはマズい、本当にマズい。これまでと同じように、姉さんの弱いところばかりを責めて、僕のペースに持っていくつもりだったのに、どうしてこううまくいかないのだろうか。どうして父さんは、僕の部屋の前に来て、話があると言っているのだろうか。


 早く離れてほしい。早くどこかへ行ってくれ。


「和也、いるのか?」

「い、いるけど……。何?」

「水羽のことでちょっとな……。色々と話しておきたいことがあるんだ。少しいいか?」

「後にしてくれるかな……? ちょっと今、外せないことがあるからさ……」

「そうか……。ならいいんだ。先に水羽と話してから、もう一度……」

「やっぱり今話そうかー! もう大丈夫だから、今ならなんでも話せますよー!」

「うん? そうか? なら話す」


 あっぶねー。このまま姉さんの部屋に行ってしまえば、終わっていたかもしれないな。姉さんはずっと家にいると父さんは思っているはずだし、部屋にいないとなると、この人なら家の中を探そうとするだろうな。そして行き着く先は……また僕の部屋……。


 いや、余計なことは考えるな。もう終わったことだ。僕がやらなければならないことは、父さんをとっとと追い返して、姉さんとの時間を確保すること……。


 いや、無理だ。父さんは僕との話が終われば、次に姉さんの部屋に行く。すると先ほど考えていたことが起こるだろうな、確実に。余計なこととかほざいてたけど、もう一度考える必要がありそうだ。


 少し体を動かした。


「ごめん、今日はもう無理かも……。バレないためにも、これ以上はしない方がいいと思うんだ……。音も立てたらマズいし……」

「んっ……! そう思うなら……手でいじるの、やめなよぉ……。あっ……!」

「あ、ごめん。勝手にしてた」


 勝手にしちゃうほどに、僕は姉さんとの体を重ねているのか。だから癖みたいになってるのかな。


「しかし、出るに出れないこの状況。どうすれば……」

「とりあえず和くんのお布団で待機かな……」

「そうだね。タイミングを見て、父さんを移動させるよ。それまでここにいてね」

「うん……」


 なんだその小動物みたいな返事。可愛すぎるだろ。


「それで、父さん? 何か重要なことでもあるのかな?」

「ああ、ちょっとな……」


 そのあとに発せられた父さんの質問に、僕はすぐには反応できなかった。


「お前は、水羽とキスはしたことあるのか?」


 反応できなかった割には、意外と言葉がうかぶものなのだな。


 キスどころか性行為までしてる、と。そして今は、それをする直前だ、と。

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