第14話
え?
ドサッと、ベッドが沈む。姉さんは僕の体に自分を密着させながら、優しく僕を包み込んでくる。首の後ろ側に回された彼女の腕は、僕をしっかりと絡め取って離さない。顔も近いし、体も近いし。至近距離でそんなことをしてきた。
数秒間だけ放心状態に陥ってしまった。驚きすぎて言葉が出ないほどだった。でも状況を把握して、やっと心臓が動いたような感覚があった。感覚を取り戻しても姉さんが抱きついて押し倒してきたという事実から、心臓の動きはとてつもなく高速で、とてつもなく強い響きだった。苦しい。
「ふふふー! かーずくーん……!」
スリスリと自分の頬と僕の頬を合わせて擦る。頬擦りというやつだ。姉さんの鼻先は、僕の頬からズルズルと下へ落ちていき、最終的には僕の鎖骨らへんのところでストップした。なぜそこに顔を当てるのか気になったが、自分の先程の質問、姉さんにいつもされていることを考えたらすぐに答えが浮かんできた。
「こうやってー、匂いを嗅ぐんだよー! スンスン、はぁー! やっぱり和くんの匂いはいつ嗅いでもいい匂いがするね!
聞かなきゃよかった、『好きな人の匂い嗅ぐ?』なんて。好きな人の匂いを嗅ぐ、というのは逆を言えば、匂いを嗅ぐのは好きな人であることでもあるのではないか? となると、今姉さんが匂っているのは僕だから、それはつまり……。いや、やめよ。
「ぎゅー……!」
「あ、あのー……姉さん?」
「ずっとこうしていたいなぁー」
「ずっとは無理だよ。いつかはこの家から旅立つ時が来るんだからさ。その時にはもう僕たちは大人になってて、学生として勉強してるのか、仕事をしているはずなんだからさ」
「たしかにそうだね。だからお姉ちゃんは、和くんの言うその『いつか』がいずれやってくるから、できなくなる前にこうやってぎゅーってしてるの」
「そ、そう……」
「ねえ、和くん……。もうちょっと、甘えていい……?」
ゴクリ。
頬を染めながらのその言葉はもはや反則級。こんなの了承しないわけがないだろう。全く、自分はどこまで人に甘いんだよ、流石に直した方がいいな、この性格。
グイグイと、もっともっと顔を近づけてくる姉さん。それも僕の体あたりではなく、しっかりと僕の顔に目掛けて急接近してきたのだ。
「姉さん……。それはマズいんじゃないかな……」
「マズいって、何が?」
不敵な笑みを浮かべてそう言う。
「いや、キスとかそういう直接的なことは、あんまりしない方がよろしいかと……」
「バレなきゃいいの! 和くんも賛成してたことじゃん! はい! 和くんのファーストキス、いただきまーす!」
最後の言葉を付け加えなければ、僕はきっと冷静な判断を取れていたことだろう。姉さんの言葉で、僕は恥ずかしながらも少し興奮してしまった。
だから勝手に体が動いてしまうのだ。匂いを嗅ぐなんてことはそれにあたる。
姉さんは甘えに甘えて、僕にくっつきながら匂いを嗅いできた。そして勢いでキスをしようとしている。僕だって姉さんに甘えたいのに、そんなことをすぐにするなんて不公平だと思った。
なんとかして言いくるめられないものだろうか。
****
「姉さん、僕はいつも不公平だと思ってるんだ」
「それって、どう言う意味なの?」
「いつもいつも、姉さんが僕にくっついてきて、絡んできて、自分のやりたいようにしてるのが、不公平だと言ってるのさ」
近づけてくる顔を直前で止めて、姉さんは少し考えているようだった。その隙に、逆に僕が姉さんをひっくり返して、覆い被さるような体勢になった。
「ちょ、ちょっと……? か、和くん……?」
「僕だって姉さんに甘えたいさ。僕だって姉さんの匂いとか嗅ぎたいさ。僕だって姉さんに好きなことしたいさ」
「和くん……」
「さっき姉さんも言ってたよね。甘えていいか、ってね。なら僕も、姉さんに甘えていいかな……?」
姉さんはコクリと頷き、恥ずかしがりながら横を向いた。赤面しているのを隠しているのか、口元に手を当てながらだった。
「いや、別にエロいことをしたいわけではなくてね、ちょっとだけ癒しを求めているだけなんだ……。だからそんなに恥ずかしがらなくていいよ」
「こ、こういうのは大体エッチなことをするはずなの……! もう……! 期待した私が……」
言葉の途中で、姉さんの首に顔を当てた。
「ちょ、ちょっと……。い、いきなりはダメだよぉ……」
「……」
「お姉ちゃんがやってたことをしてるの? お姉ちゃんの匂い、どんな感じ?」
「うん、いい匂いがするよ……」
今度は耳元で囁いた。姉さんの『んっ……』という声と、ビクッと体が震えたのが分かった。
「耳……ダメ……」
「これもいつも姉さんのしてることだよ。僕もしてみたかったんだ」
なんか色々すごい。色々すごいことしてる気がする。
「んっ……。はぁはぁ……。和くん……」
「……」
「もういいでしょ……? 早く、早く、ヤろうよぉ……」
両手を握ってきて、そこで僕はタガが外れる瞬間まで来たことを悟る。まだ行為を行うには未熟で経験も浅いことを自覚している。
「よし、もういいかな。だいぶ癒されたし、早く小説に戻らないと」
「えっ?」
「元気出た。姉さんも手伝ってくれる?」
すると姉さんは、
「バカッ!」
と、大きな声で怒った。
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