第12話

 うわぁぁぁぁあ!!! やっちゃったぁぁぁぁあ!!!


 和くんが部屋を出てから、私は一人でベッドの中に潜り、チャンスを逃してしまったことを後悔して嘆いていた。ちなみにこのベッドは私のではなく、その和くんの物である。弟のベッドでジタバタともがいているのは少し変な感じだった。


 いや、そんなことはどうでもいい! とりあえず今日一日は和くんとまともに会話ができないということを頭に入れておかなくてはならない! 気まずい! 私も! 和くんも!


 というか、なんで私あの時に咄嗟に指摘しちゃったんだろう。和くんが襲うかもしれなかったのに、どうしてドキドキしすぎてあんなことを言っちゃったの……。心の中ではああしていれば、こうしていればの言葉が飛び交っている。ああ、もどかしい……。自分でチャンスを潰してしまうなんて、本当に嫌になる。


「和くん、今日は私と話してくれないのかなぁ……。嫌だよぉ……」


 自分のせいだ。気が動転していたせいだ。実は和くんが起き上がった時、私も目を覚ました。そしてすぐに下半身がスースーしていることに気づき、自分の手で確かめた。手をそこに当てると、夜中に同じ体勢をしていたことを思い出した。欲求不満を晴らしていたことだった。


 なぜ下着を脱いでいたのかというと、純粋にグチョグチョになっていたのが嫌だったからだ。しかもそのパンティで、もっとグチョグチョになっていたところを拭いた。そのあと脱ぎ捨てたそのパンティは、私のすぐ近くに置いたのだ。


 ノーパンであることに気付き、和くんが起きて動いていることにも気付いた。


 もし和くんにこれが見つかってしまえば、彼は私のことを弟のベッドでノーパンで寝る変態女というレッテルを貼られてしまう可能性がある。絶対に見つからないで欲しかったが、ベッドから出た和くんが布団を捲り上げ、すぐに見つかってしまった。


 布団を剥ぎ取られ、大事なところを隠す術がない私は、必死に見られない程度で脚を交差していた。思いの外、和くんは引いたようなそぶりを見せなかった。もう私はこの時点でだいぶ気が動転していた。


『ぴと』


「んっ……」


 脚を触られて、声が出てしまう。それから和くんはどんどんエスカレートしていき、私の脚をガバッと持ち上げようとしていた。開脚するとどうなるかなんて、目に見えていたことだった。私のがあらわになる、それだけだ。


 だが一瞬思ったのだ。あらわになって、そのあとはどうするのだろう、と。


 和くんは男の子であり、私なんかよりも力が強く、それでいて体力もある。本気で襲われたら抗えないだろう、といつも思っていたけれど、精神的にはまだ子ども。流石にそんなことできないはずだと、私はたかを括っていたのだが、まさかここまでその気になるなんて予想していなかった。


 飛び上がるほどの嬉しさの反面、性行為は未経験であるため怖さもあった。そして加えて気が動転している。正常な判断が遅れ、結局指摘したということだ。


 せっかくのチャンスだったのにぃ……! たしかに襲われるかもしれないという恐怖心はあったけど……! あったけど、それでも和くんと一つになりたい気持ちの方が大きいはず……!


 またチャンスが巡ってこないか、私は祈った。



 ****



 あ、いた。扉の隙間からちょこっと覗くと、和くんは洗面台で歯を磨いていた。鏡を見て一歩も動かないでいる。


 なんか、様子が変だった。ずっと動かないでいるのはおかしく思えた。そして歯ブラシで、同じところを延々と磨いている。口内に何か気になる物でもあるのかな。さては虫歯?


 数分経っても変わらずに、ずっと洗面台で立ち続けて歯を磨いている姿しかない。見ていて本当に心配になってきたため、声をかけようとした。


「和く……」


 ぐるりと私の方を向いて、まっすぐ目を見つめてくる。やだ、何この状況……。和くんに見つめられると、なんか嬉しくなってきちゃう……。私もう、和くんのこと大好きになっちゃってるんだと自覚した。


 自分の顔が、少しずつ赤くなってきているのが分かる。それを抑えたくて、隠そうとして頬に手をペタッと当てた。


 歯ブラシの動きを止め、うがいをして、和くんはその場から立ち去ろうとした。私から避けるようにしているのが見受けられる。やはり気まずいのだろう。でもそんなことで私は引かない。


「ねえ! 和くん!」


 和くんの体がビクッとした。


「さ、さっきのことなんだけどさ。あれ、本当はお姉ちゃんに何したかったの?」

「別に……何も……」

「お姉ちゃん、実は起きてたの。和くんが脚を触るちょっと前からね」

「そ、そうなんだ……。でも僕は、やましいことをしていたわけではなくて……。そうだ……! 下着を履かせようとしていただけなのさ……!」

「嘘をつかないで、正直に言って」

「はい……」


 どんどん和くんの顔が赤くなっていく。それはそうだよ。恥ずかしいに決まってる。でも彼の口から、私は聞きたかった。イジワルなんかじゃない。確かめたかったのだ。


「私に何をしたかったの? 何を、見たかったの?」

「ね、姉さんの…………です……」

「よく言えました。撫でてあげます」

「う、うん……」

「やっぱりそうだったのね。和くんも男の子だもんね」


 私は和くんのお姉ちゃんで、和くんが求めてくるのであれば、できる限りなんでもしてあげたい気持ちがある。だから……。


「これからは直接言ってね? お姉ちゃん、和くんが『見たい』って言ったら、ちゃんと見せてあげるから……。おっぱいとかお尻とか、大事なところとか……ね?」


 これまで見たことないほどに、和くんは赤くなっていた。

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