学校では厳しい才色兼備な義姉が、家だと僕にすごく絡んでくるんだけど！？

第8話

　ずっと誤魔化していることがある。誤魔化さなくてはならないことだと思っていた。姉さんが僕のことを異性として意識している、というか好きになっているのを認めてしまえば、僕は家族としてやっていけないと感じたのだ。

「ご、誤魔化さないと……だって、僕たちは姉弟っていう関係だし……」

「はぁ……。その言葉、何度も聞いたよ？　そしてお姉ちゃんはいつもこう答えてる。『義理だよ』ってね！」

　たしかに姉さんは、決まり文句のようにそれを口にしている。義理、義理か……。僕たちは義理の姉弟なんだよな……。

「そうだよ、僕たちは義理の繋がりさ。だからこそ、僕は姉さんの対応に困るのさ。義姉として接したらいいのか、それとも……姉さんが僕に対してそう接しているように、異性としての方がいいのか……」

「どちらかなら、お姉ちゃん的には異性として接してほしい！」

「それは、なんで？」

「分かるでしょ？　和くんが好きだからだよ……！　以上！　デート再開！　ほら、行くよ？」

　何も隠さずに言い放ったから、なんかカッコいいと思った。でもそのせいで、僕は一段と悩むこととなる。

　僕が本気で姉さんを異性として見れば、タイミングが良ければ、力で彼女を押し倒すかもしれない。思わせぶりな行動を取ってきたら、僕の中に眠る何かが、その時は本当に爆発してしまう。

　いいのか？　異性として見て、僕は普通の状態でいられるか？　自分自身のことだから、大体分かるのだ。絶対に何も起きないわけがない。

「ずくん……！　和くん！　ずっとボーッとしてるけど、具合でも悪いの？」

「いや、なんでもないよ！　ちょっと考えてただけだから……」

「お姉ちゃんのこと考えてた？」

　僕の顔が一瞬でこわばる。

「あら、図星？」

「そうだよ！　姉さんのこと考えてた！　これから異性って思うと緊張するし、少し寂しくなってきたのさ。姉さんが姉さんじゃなくなるって思うとね」

「んふふー！　和くんは、お姉ちゃんのことってどう思ってるのー？」

「ふ、普通に、義理の姉かな……」

「ちゃんと義理ってつけるんだ。一応はお姉ちゃんって思ってるんだね」

「な、何か……？」

「お姉ちゃんとしか思えないってわけじゃないのね？」

「ま、まあ、そうかな……」

「ふーん。それってすでに、お姉ちゃんのこと女として見てない？」

　ずっと自分が隠していたものを当てられた気がする。ずっとずっと、しまいこんで見つからないようにしていたものだ。

　そうだ。僕は、姉さんのことをずっと女の子として見てたんだ。気づかないフリをして、関係にヒビが入ると恐れて、でもそう見てしまっていて、姉さんだって僕にそういう気があるみたいで、色々なことが関係していたから、僕は心の奥底に封じ込めていたんだ。

　たまに姉さんを、『エロい』と感じて性的に見ていたのも、全部全部そうだったからだ。

「んふふー！」

　優しい微笑みだ。嬉しいのだろう。

「次はどこに行こうか」

　しかし僕は考える。

　ただ姉さんを女の子として見ているだけで、好きという感情とは違うのか、と。

　＊＊＊＊

　小学校の頃にできた姉。名前も知らず、突然僕の前に現れた新しい家族。

　———君が和也くん？　私はお姉ちゃんになる水羽だよ！　これからよろしくね！———

　———よ、よろしく……———

　すごく可愛い女の子だなぁ、と思ったのが最初だ。それからは普通の家族として接し、姉さんが僕にベタベタしてくることは一度もなかった。当時はまだどちらも小学生で、そもそもその時から僕のことを好きだったのかも分からない。

　しかし姉さんが中学に上がってからは、それが激変した。

「和くん！　手を繋ごうよ！　どうして離しちゃうの！」

「ああ、ごめん……」

　こんなふうに、僕に積極的にボディタッチをすることが多くなったのだ。それの回数が減ることはなく、むしろ激しく増加していった。

　姉さんに続いて、中学生になり思春期に突入すると、当然そのようなボディタッチを僕は嫌がった。しかし姉さんは、嫌がっているにもかかわらず部屋に入り込んではベタベタしてきた。あの時期はマジで抵抗してたな。今は嫌がるだけで、強く当たることはない。

　初めて会った時から、姉さんが血の繋がった姉弟ではないことを頭に入れていた。ずっと義理だという認識だった。それは今も変わってない。

　ん？　あれ？　そしたら僕は、姉さんのことを小学生の頃から異性だと……。

「和くん？　顔赤いよ？」

「えっ！？　ほ、ほんと？　あははー、どうしたんだろうなー……」

「具合悪くないの？　大丈夫なの？」

「う、うん！　全然大丈夫だよ！」

　顔面の熱がめちゃくちゃ上昇したのが分かった。それに反応して、体全体の温度が高まる。

　びっくりした。そんなに前からか。つい最近のことのように思っていたけれど、考えてみればそういう意識は以前から持っていたのか。ませてるな、僕。

「……」

「お姉ちゃんのこと、ジーッと見て、どうしたの？」

「うーん……。異性として見るのって、姉さんのことを可愛いと思うのも当てはまるの？」

「あ、当てはまると思うけど……」

「なら、僕はとっくの昔に異性として見てたんだ……」

　姉さんがピタッと止まった。

「ね、ねぇ、和くん？　お姉ちゃん、トイレに行きたいんだけど、行ってもいいかな……？」

「別にいいけど？」

「じゃあちょっと、待っててね……」

「うん」

　姉さんがトイレの個室で、座りながら顔を赤くしていることを、僕は知らない。