学校では厳しい才色兼備な義姉が、家だと僕にすごく絡んでくるんだけど！？

第6話

　翌日の部活はオフになったらしい。部活に顔を出せない姉さんの代わりに、副部長として神田さんが色々と予定を決めることができる。

　でも僕も一応部員だから、そういう大事な連絡は直接僕に回してほしいと思う。ハブられているのか不安だったが、そういうわけではなく、妻夫木さんと僕が連絡先を交換していなかったのが原因だった。姉さんの連絡先は持っていたため、姉さんから僕に伝えられたのだ。

　しかし、なぜ突然オフになったのかが分からない。いつもなら休日以外は活動をするはずだ。特殊なことがなければだけど。

　妻夫木さんに聞いてみた。

「どうして休みになったんだい？　美術部からの苦情でもあったのかい？」

「いいえ、そんなことはありませんよ。ただ神田さんが彼氏とデートに行きたいから、という理由だそうです。ちなみに部長にも了解は得ているそうです！」

「へ、へぇー……」

「部長ってお優しいですよね！　男女の交友関係において、かなり理解のある方ですし、デートするためなら部活を休んでもいいとは、なんて良い人なんでしょうね！」

「そうだね」

　しばらく話をしてから、ホームルームが始まった。また一日授業があると考えると、気分が落ち込んでしまう。早く休み時間にならないかと、チラチラと時計を見るのがクセになってきた。

　チャイムが鳴り、休憩が入る。僕はトイレに行くために教室を出た。誰かがこちらに向かって歩いてくるため、廊下で横を向いて突っ立っていた。その人は教室の生徒からの注目を集めていた。

　その人は姉さんだったのだ。何しにここに来たのだろうか。僕に何か用でもあるのではないかと思う。そうじゃなきゃこんなところに三年生は来ないはずだ。

「あー！　部長ー！」

　賑わっていることを嗅ぎ付けた妻夫木さんは、姉さんの姿を発見した直後に、彼女はその方向に走り出す。

「あら、妻夫木さん。和也はどこにいるか教えてくれるかしら？」

「はい！　あちらのトイレの前にいます！」

「本当ね。ありがとう妻夫木さん」

「いえ！　部長のご要望であれば、私はなんでもふると誓っておりますので！」

「それじゃあね」

「はい！」

　姉さんは僕に近づいてくる。手元を見ると、青色の巾着袋を提げているのが分かった。大きな箱みたいな物が入っているであろう袋。もしかしてそれって、僕の……。

「はい和也、お弁当忘れてたわよ」

「やっぱり！　リュックが、どうしてか軽いと思ったんだ。ありがとう姉さん！」

　周りからは羨ましそうな目で見られているのを感じた。姉弟だから、別に気にすることでもないと思うけど。義理ではあるが……。でも家庭内の関係を知られているため、恋敵としては見られていないはずだ。

「姉さん？」

　スススと巾着袋を渡そうとしながら、耳元に顔を近づけてきた。

「……昨日言った通りだけど、放課後はお姉ちゃんとデートだからね……？」

　そう囁いて去っていった。

　僕の恋愛経験を積むために、姉さんは自らがデート相手となるのだと言ってきた。『そこまでしなくても……』と乗り気ではなかった僕も、最終的には姉さんのゴリ押しに対抗できず、仕方なく了承した。

　つまり、姉弟でデートをすることになったのだ。恋人同士でもないし、具体的に何をするのかとか分からないけど、とりあえず姉さんの言うことに従いながら過ごそうと思う。

　＊＊＊＊

　はぁ……。ついに放課後になってしまった……。生徒会の仕事を爆速で終わらせるから、なんて言ってたけど、普通に遅くなってることに僕はイライラしていた。

　校門で待っている。

「おまたせ」

「ん？　あ、終わった？」

「うん。ごめんね、遅くなっちゃって」

「遅くなりすぎだよ、僕ずっと待ってたんだけど？」

「本当にごめんねぇ……！　和くんをずっと待たせて———」

「姉さん？　周り見て？」

「あ……」

　いつもの家の状態が出てきそうになっていた。姉さんは、学校で定着した自分のイメージを崩すことができず、自由に僕にイチャイチャすることができない。さっきも僕の名前を『和くん』呼びで呼ぼうとしていたし、校門を出れば縛りから解放されるわけでもない。同じ学校の生徒がいなくなってから、姉さんは自由にできる。

　そのせいで、家で僕に絡んでくるのか。なんでかは知らんけど。

「とりあえず行こっか」

「え、ええ。行きましょうか」

　なんかこの姉さん、すごく話しかけにくいんだよなぁ。いつも思う。

　少し歩くと、ショッピングモールに着いた。

「ここに来て何をするの、姉さん？」

「……」

「姉さん？」

　必死に周りを確認している。ああ、知り合いがいないか警戒しているのか。

「もう、和くん呼びしても良いよね？　え？　大丈夫だよね？」

「大丈夫なんじゃないの？」

「本当に大丈夫だよね？　周りに誰もいないよね？　もしいたら、お姉ちゃん学校でなんて言われるか分からないよぉ……」

「いや、もうその喋り方の時点で家と同じなんだけど……」

　念入りに確認した上で、姉さんは僕のことを和くんと呼ぶことにした。解放されて、気が楽になっているのか、ルンルンでモール内に入っていった。

「あ、和くん！　お姉ちゃん本屋さん行きたい！」

「うん、じゃあ行こうか」

『ギュッ』

「……え？」

「ん？　どうしたの、姉さん？」

「か、和くん、手……繋いじゃってるよ……？」

「へ？」

　にまぁ、と笑みを浮かべる姉さん。咄嗟に手を離そうとしたが、しっかりと彼女は握り返しているため、このままの状態になってしまった。

「いや、姉さん……これは違って……」

「んー？　何が違うのぉ？　和くんから握ってきたよねぇ？　それって手を繋ぎたいってことだよねぇ？　そうだよねぇ？」

　何も言い返すことができずに、僕たちは手を繋いでデートを始めた。