第2話
翌朝。
「ふぁ〜……。おはよう和くん! 一緒のベッドで寝てたから、いっぱい和くんの匂いがお姉ちゃんのパジャマに付いてるね! もうこのパジャマ一生洗わないでいいかも!」
朝から横でうるさい姉さんは、僕がどんな思いで夜中を過ごしたのか分からないのだろう。くっついてこられて、寝たくても寝られないという状況を、姉さんは知らない。なんか目が痛い。頭もガンガンする。
昨晩、姉さんは僕の部屋に勝手に入り、僕のベッドに潜り込んできた。しかもその時は、僕がちょうど寝ようとしていた時だったため、タイミングがかなり悪かった。離れて欲しい、と頼んでも聞かず、姉さんは逆に抱きついてきた。嫌がらせをしに来てんじゃないのかと思ってしまうくらいだった。
結果、一睡もできていない。
「んー? 和くん、大丈夫? なんかげっそりしてるけど?」
「寝れなかった。ねぇ、僕前にも言ったよね? 添い寝なんてしなくていいって」
「ご、ごめんね……。お姉ちゃん、和くんがぐっすり眠れると思ったの……。昨日、ひどいこともしたし……」
「いや、でも添い寝は流石に……って、うわっ!?」
むぎゅー。僕の顔が、姉さんの豊満な胸に埋もれていく。すごく柔らかくて、もちもちしてる。ちなみにパジャマに越しではあるが、それでも感触が顔で分かるくらいだった。いい匂いもする。
「ごめんねぇ……! 本当にごめんねぇ……! お姉ちゃんが悪いよね……? 和くんの睡眠を妨げるなんて、お姉ちゃん失格だよぉ……!」
「いや、もうすでに今やってるけど……抱きついてくること全般やめてほしいんだって! というか、どうしてこんなことするのさ?」
「だ、だって……」
姉さんは、僕を自身の胸から離し、涙目になりながらも僕をしっかりと見つめてくる。
「か、和くんのこと……大好きだもん……」
は?
「何バカなこと言ってるのさ? 僕たちは姉弟なんだよ? とりあえず、早く朝ごはん食べないとまた怒られるよ?」
「え? どういうこと? 和くん、知ってるはずだよね? お姉ちゃんと和くんは……」
姉さんが何かを言おうとしたところで、僕は自分の部屋の扉を開けて出た。すぐにリビングには行かずに、近くに設置されているトイレに入り、鍵をかける。顔を手で覆い、大きくため息をついた。
「はぁ……」
扉の向こうから、かすかに聞こえる人の声。おそらく両親がテレビを見ているのだろう。この時間帯はほとんどニュースであり、僕もいつも見ながら朝ごはんを食べている。
スタスタと足音がした。姉さんが僕の部屋から出てきたのだ。そしてその足音は段々と小さくなっていく。僕は誰も聞いていないと確信し、小さな声で口に出す。
「意識するな……意識するな……意識するな……意識するな…… 意識するな…… 意識するな…… 意識するな…… 意識するな…… 意識するな……」
分かっているが、してしまう。してはいけないと、僕は思っている。なぜなら……。
「僕たちは、姉弟なんだから……」
****
「今思い返せば、あの時の返答はマズかったな……」
教室の自席で、僕は頬杖をついて呟いた。マズかったというのは、姉さんに対して言った言葉である。僕のことが大好き、というのに対して、僕の『何バカなこと言ってるのさ』は明らかにおかしいはずだ。それってもう、血が繋がってないことを認知してるっていうことのアピールになってるだろ。姉さん困惑してたし。本当にマズいかもしれない。
「おはようございます。朝から元気がないように見えますが、どうしたのですか?」
「
カバンを机の横についているフックに引っ掛けて、授業に必要な物を取り出しながら、隣の席である
「別に何もないよ。
「いいえ! 隣の席である大門さんがこんなにげっそりしていて心配です! ほら、話してください!」
「実は……。いや、やっぱりいいよ……。心配させちゃって悪いけど、本当に大丈夫だからさ」
「そ、そうですか……」
静かに椅子を引いて座る彼女。机上に出ているノートや教科書を引き出しに入れ、いつも読書している本を手に取った。
「あっ! そういえば、今日の部活に部長が来るそうですよ! 嬉しいですね、添削をしてもらえるいい機会ですし!」
本を開こうとした妻夫木さんは、ものすごく大事なことを僕に報告してくれた。僕と妻夫木さんは、文芸部に所属しており、その部長というのが、僕の姉さんである。文学賞を高校生ながらに受賞している人間であるため、文芸部の部員全員からの支持から部長になったらしい。最近だと生徒会の仕事のせいで、顔をあまり出せなくなっている。
「たしかに添削してくれるのは良いかもしれないね。でも姉さん、僕だけやたらと怒ってくるんだよなぁ……」
「そうでしょうか? 大門さんは弟さんですから、構ってるつもりなんじゃないですか? 羨ましいです!」
「羨ましい、ことなのかなぁ……?」
添削という目的で、僕の近くでダメ出しをしている姉さんが、実は部員に見えない死角で僕に色々とやってきているというのを、妻夫木さんは何も知らないんだな。胸を当ててきたり、僕にしか聞こえないくらいの声で愛を囁いてきたり、匂いを嗅いできたりともう色々だ。
久しぶりに来たから、たしかに嬉しいし歓迎するけど、ああいうのは本当にやめてほしい。変な気を起こしそうで怖いのだ、自分がな。
今日は何をされるんだろう。絶対に意識しないようにしなければ。
チャイムと共に、一日の学校生活が始まった。
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連載します。がんばります。
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