学校では厳しい才色兼備な義姉が、家だと僕にすごく絡んでくるんだけど!?
戸松
第1話
僕には一人姉がいる。名前は
その大門水羽の名を聞かれて、知らないと答える人間は少ないと思う。そう答える人間は、おそらく情報弱者だ。でも僕の周りはそんな人種はいないし、そもそも知らない人はいない。
高校生ながらにして有名な文学賞を受賞した姉さんは、当然新聞での報道やテレビでの出演があった。簡潔に言うと、有名だったのだ。そのためとても記憶に新しい。しかも僕の通っている高校で現役高校生として学生生活を満喫中だ。
メディアで取り上げられてから、一気に姉さんの名前は世に知れ渡った。それは学校ではもちろんのこと。いや、別に取り上げられなくても有名だったな。なぜなら学校で一番美人だったからだ。
黒髪ロングのストレート。遠くから見ても分かるほどに美しい顔立ち。おまけにナイスなボディを有している。誰から見ても美人に思える、そんな人。その美人さゆえに告白されるのは当たり前。入学当初から、バンバン告白されていたらしい。先輩からも同級生からも、そして一年経って入学してきた後輩からも、さらに僕の代の二つ下の一年生からも。もうなんかエグかった。
しかも生徒会長として学校を指揮している。その姿を見て、カッコいいと思った女子も多少はいた。つまり、姉さんは女子からも男子からも好かれる存在だったのだ。
でも、姉さんは誰とも付き合うことはなかった。告白されても断った、それが何度も何度もあった。僕の代の告白した男は皆、口を揃えてこう言った。
「俺は魅力的じゃないらしい……」
おそらく姉さんにそう言われたのだろう。そう言われて、断られたのだろう。でも希望はある。つまりは魅力的な人間はOKをもらえるということだ。誰かそれに当てはまる人がいるのかもしれないな。
そんな可能性のことを考えていたが、結局、誰一人としてOKをもらえることはなかった。告白しに行った友人は、あえなく撃沈された。無事に帰ることはなく、絶対に傷をつけられて帰ってきた。
それでも何度も告白するめげない友人が一人いた。入学してから何度も何度も立ち向かっていて、すごく頑張るやつだった。わずかな希望を抱きながら、撃沈しては復活し、撃沈しては復活しを繰り返していた。
でも、ある日どこかで心が折れたのだろう。これで最後だ、とキザなセリフを言ってきた。そのセリフを残して出撃していった友人は、とても清々しい顔で戻ってきたことがあった。すごくやり遂げた感じを醸し出していた。
結果は撃沈。最後の出撃も、また撃沈で終わってしまった。もう告白はしないらしい。その友人は去り際に、本人に質問したという。魅力的な人間の具体例は誰なのか、と。返ってきた答えは『そんな人誰もいない』らしい。
「俺の時間返せ!!!」
「ちょ、なんで石投げてくるのさ! 僕、何もしてないだろ!」
「うるせぇ! 弟であるお前が色々言ったんだろ! 絶対に振るように言ったんだろ!」
「い、言いがかりだー! 僕は無関係だー!」
「待てコラー!
先ほど告白しに行った体育館裏から、姉さんは出てきた。そして向かいから走ってくる僕と、それを追う友人を確認する。僕は急に止まることが出来ず、姉さんと衝突してしまった。
「いったぁ……。はっ! ご、ごめん姉さん!」
「いてて……」
その光景を目の当たりにした友人は、真っ先に僕ではなく姉さんに声をかけた。
「大丈夫ですか、水羽先輩?」
「ああ、君は……私がさっき振った子だね……」
「グハッ!」
やめろ姉さん。傷が広がるだろうが。
「それより和也? ぶつかるなんて危ないことをするのね。前が見えていなかったの? まあ、どんな理由があろうと家で説教するのは変わらないわねー」
姉さん、笑顔が怖いです。
用が済んだので、その友人と帰路についた。
「ははっ! ざまぁ見ろ!」
「……」
コイツはあの言葉を間に受けているらしい。家でキツく説教をされると本気で思い込んでいるのだろう。
本当はご褒美であることも知らずに……。
****
「うぅ……。かずくんごめんねぇ……! お姉ちゃん怖かったでしょ? 友達の前だったから、ああするしかなかったの……! ごめんねぇ……!」
「……」
ご褒美というのがこれだ。ベッドで抱きつかれながら、横でごちゃごちゃ言ってくるのだ。なにこれ? そして、何この姉さん。学校と全く違ってて、逆にそっちの方が怖いよ。
ごめんねごめんね、と何度も耳元で言ってくる姉さんが、正直鬱陶しかった。毎晩のように僕の布団に入り込んできては愛を囁き、頭をなでなでしたり、僕の匂いを嗅ぎながらギューっとハグをしたりと、もうやりたい放題だ。それに暑苦しい。
「うぐ……は、離れて……」
「やだぁ! かずくんにあんな酷いことしておいて、もうお布団から出るなんてやだぁ! もっと慰めてあげるのぉ!」
「も、もういいから……。やめて、姉さん……」
「やめない! ごめんねぇ、ホントにごめんねぇ! こんなお姉ちゃん嫌だよね? かずくんに痛い思いをさせる姉なんて嫌いだよね? ごめんねぇ、もうこんなことしないように誓うからぁ! 許してぇ!」
「許す……許すから離れて……」
「ほ、本当に? 本当に許してくれるの? 嬉しい……! やっぱりお姉ちゃん、かずくんのこと大好きだよ……!」
いや、結局離れないんかい!
そのまま姉さんは僕を抱き枕代わりにして眠ってしまった。一方、僕は一睡もできなかった。
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追記。連載します。
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