第25話 パピコ
それをきっかけに一は何かが吹っ切れました。
忘れることはない。
思い出すことだらけ。
それでも踏み出した最初の一歩は大きく。
そして優しい道でした。
一は、軽音部に来ています。
「……」
一と。
「……」
葉月。
ふたりだけの世界。
「冷房効かないね」
葉月がポツリと言います。
「うん。修理は来週になるみたい」
「えー、今日は水曜日じゃん」
「うん」
部室の温度は36度。
「ああああ、アイス食べたい」
「そうですね」
「でも、朝に1個食べちゃったんだ」
葉月はそういってため息を吐きます。
「もう1個行っちゃう?」
「いかない。負けない。アイスになんか絶対に負けない」
そう言って1時間が過ぎた頃、葉月はふらっと部室を出ます。
そして数分後……
ご機嫌な様子でパピコを持って戻ってきます。
「負けてるじゃん」
一の言葉に葉月は言います。
「このパピコはアイスじゃないのだ。
氷菓なのだ」
「そうなのですか?」
葉月はニッコリと笑いパピコをふたつに割ります。
そして、それを一に渡します。
「え?」
「奪い合いは誰かが傷つく。
でも渡し合いはしあわせを呼ぶんだー」
そういった葉月の目はどこまでも優しく暖かく。
そしてパピコは甘くて美味しい。
そんなことを一は思ったのです。
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