第953話
エンチャント:深なる魔王は今までのエンチャントとは違い、全く異質な物だった。
おそらく魔王が使っていた魔王専用スキル【血の盟約】がベースになっているんだろう。
しかしスキル【血の盟約】と違い、スキルを借りる事ができる対象が血縁者だけではない。
全てのスキル保持者が対象だ。
その全てとは人族や魔族だけではなく、モンスターも含まれる。
しかもとんでもない事に、借りたスキルは無期限に借りる事ができるようだ。
スキルレベルに関しては、借りた時のそのままのレベルで借りる事ができる。
そして最も恐ろしい効果が、スキルを借りる事によって元のスキル保持者がそのスキルを使えなくなってしまう事だ。
うん、これはやばすぎる。
しかしというか、やはりこれだけ強力な物なので制限はあるようだ。
まず借りれるスキルは能動型スキルのみで、常時発動型スキルについては借りる事ができない。
スキルを借り受けるためには対象のスキルに触れる必要がある。
今回の魔王は鎧に触れるだけでよかったが、スキル【俊足】なら発動中の身体に触れる必要があるし、魔法であればその魔法に触れる必要がある。
アキーエさんの魔法を借りるためには、一回死なないといけないようだ‥
それに借りる事ができるスキルについては1つのみで、他のスキルを借りた時点でそれまで借り受けていたスキルは持ち主の元に戻る事になる。
1つしか借りれない事や、能動型スキルしか借りれないなどの制約はあるが、相手としてはそれまで使っていたスキルが使えなくなる上に戦ってる相手が自分のスキルをそのまま使ってくるのだ。
考えただけで恐ろしいぞ。
今回使用したのがスキルに乗っ取られた魔王だったのでそこまで動揺しなかったが、俺がスキル【創造士】とか奪われたら動揺どころじゃ済まないぞ。
ラケッツさんで実験出来なくなってしまうなんて、考えただけで絶望してしまう。
あんな事やこんな事‥まだまだやりたい事がいっぱいあるんだ‥
それはともかく、今魔王から借り受けたスキルはスキル【エクソスケルトン】というスキルだ。
昆虫の外骨格のような物を自分の身に纏う事ができ、ある程度それを操作する事ができる。
例えば破損した鎧を高速で修復する事ができたり、小手から剣を生やしたりする事ができる。
これって使い勝手が良すぎなんだが‥
アレカンドロの【聖鎧闘士】に比べると鎧の強度は低いが、汎用性が高い。
俺が【エクソスケルトン】の具合を確かめていると、魔王がおそらくスキルで出したと思われる剣で斬りつけてきた。
俺はそれを持っていた剣で受け止め、魔王の腹部に蹴りを放つ。
「ぐぼっ！」
魔王の腹部には俺の足から飛び出ている長い爪が突き刺さっている。
こんな使い方もできるようだ。
俺は更にエンチャント:真なる勇者を発動する。
「弾けよ、『輝球』！」
魔王に向かって光属性の魔法を放つ。
魔王と同じように、スキル【エクソスケルトン】を発動させ、鎧をつけたまま他のスキルを使用することもできるようだ。
魔王と同じで鎧の性能は十全には使えないようだが‥
魔王の目の前で爆発した光の球は魔族である魔王に少なくないダメージを与える。
「ぐかっ！ガアァァァァァッ！」
盾で何とか直撃は防いだものの、光属性は魔王の腕や身体を焼き焦がしている。
「もうこれ以上苦しめるつもりはない‥さらばだ魔王！」
俺は手に持つ剣に魔力を流す。
オリハルコンを含んだダマスカス剣なら耐えれるはず。
「光よ、敵を撃ち砕く聖なる刃となれ『光輝真剣』！」
剣が光り輝く。
光の剣は宙に輝く道を描く。
それは魔王の身体に吸い込まれるように放たれた。
剣から光が抜け落ちた時、魔王の身体は力をなくしたように地面に突っ伏した‥
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